第12話 いきなりそれはありですか?


 静寂を破ったのはジオリールだった。まず姿勢を正し、

「今回の件は本当に助かった。領主として礼を言う。手を貸してくれてありがとう、感謝している。それは偽りない」

 ジオリールは雰囲気を変えるようにお礼を言って、頭を下げた。

「それとは別の話だ。ディーノへのプロポーズは別だ。それは、はっきりさせておきたい」

 全員の頭に疑問符が浮かぶ。

 

「ディーノ、結婚してほしい」


 ディーノは、表情まで固まったままだ。

、まにあわなかたんだ。だから二度と後悔したくない。儀式の前から万一のことを考えてあんなに準備したのに、全く役に立たなかった。情報も入って来なくなって絶望したっこともあった。でも、俺は望みを捨ててなかった。があったのは確かだけれど、ディアナは攻撃魔法が少しだけ使えたし、結界魔法も得意だった。年齢の割には魔力の練度が高かったし。だから、君が生きていると知った時は本当に間に合わなかったと深く後悔したし、もう、後手にはなりたくないと思った。ここで再び会ったことも、無駄にはしたくない。一分一秒も」

 ディーノの驚きをよそに、ジオリールはそう言った。

「もちろん、いまさら、と思うだろう。混乱もすると思う。でも、今じゃなきゃ意味がない。純粋に、あの時と変わらずに結婚したいと思っている。それは事実だ」

「ちょっとストップしてください。僭越ながら、王子、信用してよろしいのですか? ここには部外者がいますけど?」

 シェラが静かにそう言った。

「アッシュもブロウもジョージも俺の側近だ。ジョージは砦の警備と称しているが、俺の後ろを守ってくれている」

 あっさり、「影の部隊」だと告げたのでブロウが目を剥いた。

 パチン、と指を鳴らしてディーノは遮音結界を張った。これで盗聴の心配はない。


「では」

 ジョージがそう声をかけてさらに遮音と認識阻害の結界を張った。これで誰かが不意に入ってきても、部屋には誰もいないという状態になる。

「説明を求めても? 私たちにもさっぱり意味が分からない。推測だけでしてよい話ではないですよね?」

 そう言ったのはアッシュだった。

「まず、ディーノの話をする前に、予備知識として知っておいてほしいことがある。サックスとアルトの双子の兄弟のことと、武器職人シェラのことだ」

 まずこの三人の話だ、とジオリールは告げた。


「二人の本名は、サックス・ディ・ゴア。アルト・キィ・ゴア。ゴア男爵家の双子の兄弟、男爵家の三男坊と四男坊だ。そしてゴア男爵家はアレンディバード侯爵家に代々仕えている、アレンディバードの武を担う家柄だ」

 確認したのはジオ自らだった。その説明にアッシュが目を見張る。ある程度の目星をつけていたブロウとジョージ隊長に驚きはない。

「今は継承権を返上して平民として暮らしています」

 そう答えたのは、双子の兄、アルトである。

「君はアルトだね。奥さんは、シェラ。本名はシェルブール・ティガー・アレンディバード。アレンディバード侯爵家の長女だ。アレンディバード侯爵家を継承できるだけの実力も人望もあったが、それを捨てて君と結婚した。公爵家はシェラの弟君が継承した。三人の間で、というより、男爵家とも公爵家とも一定の付き合いがあり、不仲ではない」

「はい」

「じゃぁ、彼女は? ディーノ・フレンチ。彼女の経歴はたどれない」

 きっぱりとジオはそう言った。

「ディーノは、災害があったたか国の街を記憶喪失状態でさまよっていたところを保護した、だから名前も勝手にディーノ・フレンチと名乗らせた、というのがギルドの公式記録だ。ギルドの公式記録とフレンチという名前を名乗らせたのも齟齬はない。問題はない」

 ブロウはそう言った。

「でも、ジオは確信をもって調査の指示を飛ばした。災害が起きた町の、それらしい子供を探すとなると、まぁ普通の神経じゃできないくらいの人数になる。なのに調べさせた」

「ああ、記憶があるかないかが大きなポイントだからな。間違いがあっては困る」

 ジオはそう言った。

「昔話になるが、俺には昔、生まれながらにして婚約者がいた」

 それは確かに予測できたことだ。第三王子とは言え、一国の王子なのだ。しかし、現段階で婚約者はいない。適齢期も過ぎているのに色恋の話がない。しかも今は臣下に下りたい、王位継承権を放棄したいという本人の希望と、それを引き留めようとする王室と議会側の間で話し合いが続いている。


「一時期は公表されていたが、相手の王女に瑕疵があって、相手国から一方的に破棄された」

「婚約は本当のことだったんですか?」

「昔、俺の祖父母世代、三か国の国境紛争締結条約が結ばれたことで、それぞれの王子や王女が政略結婚したんだが、その時の縁で俺のじーさんの妹、ゾーラがレデカッツに嫁いだんだ。つまり、ゾーラばぁさんの仲介で俺たちの結婚が決まった」

「そうでしたね」

「そのゾーラに最年少侍女としてついて行ったのはローザリオン・スイ・アレンディバード。シェラのおじいさんの妹、になるのか?」

「はい」

 ここでつながりが現れた。

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