第7話 マンティコア・出現 その1


 メーカーズたちが砦を訪れた翌日、職人のシェラはギルドからの緊急依頼として飛び入りで請け負った仕事をしていた。アルトとサックスも別の仕事で出かけていたのだが、昼過ぎに納品のために広場に向かうシェラの護衛兼荷物持ちに付き添ったのだ。

 広場で待ち合わせたのは、初めて依頼を受けた隊商で、野営に使っていた魔道具の修理が急遽必要になり、ギルドで紹介されて昨日の夕方、店にやってきたのだ。

 汎用品ならどの職人での良かったのかもしれないが、ギルドの職人は他じゃぁ断るだろうな、と意見したという。

「助かるよ。仕事に必要な魔道具だったからありがたい」

「あくまで応急処置です。できれば専門の職人さんに手直ししてもらってください。この手紙を渡せば、私のやったことがわかりますから」

「いや、ほんとうにありがとう」

 シェラに頼んだ修理品を引き取りながら、商隊の商人が礼を言った。修理品と一緒に相手の職人あての手紙を渡す。

「どういたしまして」

 シェラが笑顔で納品する。

 この街で一仕事終えた商隊は昼過ぎの出発で夕方には次の街に着く。

「あれ? 今日はあの魔術師のお姉さんはいないの?」

 護衛についていた一人がそう言った。何度か顔を合わたことがある冒険者チームの護衛が付いていた。

 「今日は別口の仕事に出てるんだ。そろそろ帰ってくると思うんだがね」

 と言ったとたん、砦の方向から狼煙のろしが上がり、あわただしく複数の伝令兵が走ってくる。

 

「緊急事態だ。マンティコアが現れた。みんな避難しろ」


 のんびりした昼下がりが、一気にあわただしくなる。

「出現場所は?」

「砦の向こう、森の中層だ。街の方向に進んでいる。出発できる商隊は出発してくれ。町に残るなら教会と執政館に避難を。ただし荷駄の保証はしない」

 広場でそう言い捨てた伝令係は執政館に向かって走る。

「では我々は出発する。お互いの無事を」

「無事を、また会いましょう」

「また会いましょう」

 商人とその護衛と言葉を交わし、アルトとサックスとシェラは予定された通りに砦に急いだ。


 マンティコアは人面の顔と、獅子の体を持つ魔物である。しかし、今回のマンティコアは、サソリの尾を持ち、口から瘴気を吐くという。もちろん、本来の一閃して獲物を切り裂く攻撃も健在だ。次々に明らかになる情報に、会議室に集まった全員が息を飲んだ。

「瘴気を吐くとか、サソリの尾を持つとか、突然変異でしょうか」

「わからん。推測できることはいろいろだが、マンティコアの主食は人間だ。できるだけ早い段階で仕留めないと、街に近寄られたら厄介だぞ」

「今冒険者たちに声をかけて、協力してくれる冒険者を二手に分けています。街の住人を教会に集めて、籠城できる準備をしています」

「おう。それはそれで進めてくれ。現在地はまだ魔の森の中だ。できれば、討伐は魔の森の中でやりたい。とりあえず、動けるものは砦に集合だ」

 執政館の中でジオリールはその指示を飛ばし、自ら砦に向かったことで、いろいろなことが動き始めた。


 町を囲む結界防壁を守る結界士は、結界の拠点となる門と、少し離れた詰所に陣を張り、より強固な結界を展開しようとしていた。常駐する町の結界士の結界はそんなに強くない。それよりもより森に近い砦に常駐する結界士の方が強い結界を張る。

 仕事をしている結界士に頼んだぞ、と声をかけ、ジオリールは領兵が展開する砦に向かった。



 その砦では、着々と防衛のための準備がなされ、討伐隊も組織されている。

「まだ森の中か?」

「はい、まだどこにいるか発見されていません。斥候が出ていますので、位置確認は早めにできるかと」

「冒険者たちは?」

「戦えるチームは3チーム、ランクが下なので町の防衛に。ランクが上のチームがいるんですが、こちらはメンバーがそろっていないので砦詰めにしています。他に回復魔法が使えるものは医療班に。ソロの冒険者たちは街の防衛を頼んで、街の領兵を減らしています」

「わかった」

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