第4話 シュルシュタット・ジョージ隊長
執務室の前では護衛兵が立っていたが、ジョージ隊長だと気が付くと警戒を少しだけ緩める。
「緊急報告案件があって、ガルト伯爵にお目通りを願いたい。駐在司令官のジョージだ。彼らは執政官との面接の約束をしている冒険者たち、「メーカーズ」だ。報告案件に彼らの同席も求めたい」
「聞いております。冒険者の方々の面談については、武装解除をお願いしたい」
これについても聞いているので素直に従う。差し出されたトレイに、革ケースに入った四本のおそろいの短剣が並んだ。これで腰に装備している武器はなくなる。見かけ上は。
「これ、かっこいい模様だな」
護衛の一人がそうつぶやく。
「魔力認証が付いているので他の人は抜けませんよ?」
革ケースに少しだけ複雑な紋様が入ったそれは、ファッション的にも素敵だが。
シェラの魔術紋が刻まれたその短剣は、チーム四人の魔力のどれかを認識しなければ鞘から抜けない
ギルドでは最新の流行だが、冒険者にとってはマイナスにもなりかねない魔術紋だ。あえてその方式を採っているのはこの短剣にイロイロ仕掛けがしてあるからだ。
取次を経て執務室に入ると中にいたのはジオリールと執政官のリウム・ガルト伯爵だった。
ギルドに来るときは冒険者ジオなのだが、今日のいでたちは統治者としてのジオリールそのもので、シンプルにシャツとトラウザーズという姿はまさしく貴族だった。
「やぁ、来てくれたんだね。と、ジョージ、緊急かい?」
「はい。彼らの同席も求めたいのでよろしいですか?」
何かがあったとジオリールとガルトに緊張が走る。
「まだ出没場所を絞り切れてはいないのですが、マンティコアの目撃情報が出ました。それらしい被害も数件確認していますが、マンティコアの仕業だとは断定できません」
「妙な報告だな」
「複数の冒険者からの情報と、目撃情報から推察すると出没しているのは間違いないのですが、彼らの証言では、そのマンティコアが瘴気を吐くというので信じがたいという意見で確証がないというのが現実です」
「瘴気?」
瘴気は、毒素の塊と言われている。瘴気を吐く魔物はいるが、マンティコアが瘴気を吐くという話は聞いたことがない。
マンティコアは、人面と獅子の体を持ち、尾は毒矢を飛ばす。肉食で、魔の森の中では強い部類の魔物にあたり、食物連鎖の頂点に近い討伐対象の魔物だ。やつらは人肉が好物だから、見かけた人間は必ず襲う。獣人族は足が速いし、魔族は抵抗が激しいのだが、人族はそれほど苦労せずに捕食できると知っているからだ。ただ、魔法を使う能力はないとされている。
「はい。 目撃者の話だと、瘴気を吐いて仲間を殺したと。どちらにせよ、いずれ討伐が必要だと思いますのでメーカーズの皆さんにも協力してほしいと思います」
「申し訳ない、今は休暇中で個人活動に終始しているけれど、チームとしては来月末に護衛の仕事が入っている」
「充分だ。それまでに片付けばありがたい。そうじゃなかったら仕方ない、君たちの仕事を優先してくれ。個人活動を邪魔するつもりもないが、何かあった時は協力してほしい。君たちの実力に合わせて仕事を割り振るから」
ガルト伯爵はそう言った。
「彼らの実力は?」
ジオリールはそう質問し、ガルトは手元の書類を確認する。
「みんなCクラス冒険者か。だったら、万一の時の町の防衛のあれこれを頼むことになるな」
「それなんですけど、砦に配属してほしいかなと」
「砦は最前線だ。Bクラス以上の冒険者でないと」
ジョージ隊長の言葉に、伯爵は異を唱えた。
「いや、それだけの根拠があるんだろう? 司令官」
間に入ったのはジオリールである。
「ギルマスの評定値では全員Aクラスなんですよ。Bクラスの昇進試験は領都のギルドじゃなくちゃいけないんですが、こいつらは遠い、興味ない、で一切昇級試験を無視していて」
「は?」
「正式なランキングでは全員Cクラスなんですがアルトもサックスも、もとは王都の警備隊出身でサブリーダーまでやった人間ですよ。シェラは職人が基本ジョブですが、単独でリザードの群れを狩れる実力者だし、ディーノは魔法特化のくせして剣も扱える、しかもその腕前はCクラス以上。もう俺、頭がおかしいのかと思いましたもん」
「いや、ちょっと待て。リザードの群れの話は報告書にはないぞ?」
「ないですよ。討伐した証拠がないから何も。だから報告する公式文書には書かなかっただけで」
「どういうことだ?」
伯爵が口をはさんだ。昇級試験を拒んで、ランクをそのままにする冒険者がいるのは周知の事実だ。ランクが上がればそれだけ負う義務も多くなり、それをデメリットと考える冒険者も多いからだ。
だが、リザードを一人で狩れる実力がありながら昇級しないというのは驚きだ。リザードは群れになると村一つ消滅させるほどの攻撃力を持つ災害級、と呼ばれる魔物に数えられ、必ずチーム戦で戦うことをギルドは推奨しているほどだ。もちろん、一匹ならBクラス冒険者の獲物だが。
一人で複数のリザードを狩れるということは、実力的に文句なしのAクラスに他ならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます