襲撃
ここが、巨大ゴブリンの住処か。
家というより、ただのデカい穴だ。
ゴブリンはこれで満足しているんだから、すごいよな。俺なんてこんな所で寝れない。
この穴の奥に巨大ゴブリンがいる。
強さは未知数だ、気を引き締めていこう。
リアムが巣穴を見て、眉をしかめて杖を上げる。
「とりあえず、穴に魔法撃ち込む?」
「ああ、頼む」
これで片付けられたらいいんだけど、そう都合よくはいかないだろう。
「【
巣穴の奥まで、炎弾は進み続けた。
その奥行きがそこまで広くないのが分かったすぐあと、奥から爆音が鳴り響いた。
「なに、この音……?」
耳が壊れるかと思った。
リアムの魔法が、中にあった爆弾か何かに引火したんだろうか。
とりあえず、巨大ゴブリンが死んでるか確認しに行こう。
「行くぞ、気をつけろよ。死んでないかもしれない」
「うん! ありがと」
奥に進んでわかったのは、ここはただのデカ穴というよりは、洞窟みたいだということだ。
すごくジメジメしているし、匂いもキツイ。
早く出たい。
「あ! あれがゴブリンじゃない?」
リアムが指差す方向には、大きな“何か”が転がっていた。
「リアム、ここで待ってて、俺がみてくる。」
恐る恐る近づくと、それはゴブリンではなく、ただの岩だった。
随分紛らわしい形だ。
俺はため息をついた。
「安心しろ。リアム、これは―――」
その時、俺の頭上にとてつもない衝撃が走った。
「フォルネ!!! ゴブリンが――」
意識も朦朧として、言葉も聞き取れなくなる。
もっと、鍛えておけば良かった……
―――
「フォルネ!!! ゴブリンが上から!!」
フォルネが、上から振ってきた巨大ゴブリンの下敷きになった。
でも、フォルネはこんなことでくたばる人じゃない。
巨大ゴブリンが、フォルネがいた場所から足を退けた時、巨大ゴブリンの下敷きとなっていたはずのフォルネが消えていた。
「え、なんで……!」
巨大ゴブリンが慌てて背後を振り返ると、ゴブリンの背後にはフォルネがいた。
だがその様子はどこかおかしい。
顔に変な模様が浮かんでいるし、雰囲気も違う。
見た目はフォルネなのに、まるで別人みたいだ。
前に、新米狩りをボコボコにしたときも、フォルネはこの姿になった。
「またか……相手はゴブリン。この野郎随分と軟な奴だ」
いつもの話し方と、違う。
別人なの……?
でも、見た目はフォルネそのもの。
あれはフォルネ本人だ。
どうゆうことなんだろう。
二重人格?
「ブ、ブゥ!!!」
「ゴブリンか、豚みたいだな」
足を曲げ、剣を抜いて壁がえぐれるほどのスピードで、ゴブリンに突進した。
その風圧で身体が吹き飛びそうになる。
その後は、一瞬だった。
ゴブリンが反撃する隙も与えず、腕を斬り、足を斬り、殺した。
「フォルネ……よね? 」
「あ、お前は……いや、俺はフォルネじゃねぇよ」
じゃあ、一体何者なんだ。
フォルネの姿で、何をしているんだ。
「ま、もうそろ時間切れみたいだ。詳しい事は、次会ったとき教えてやるよ」
そう言った瞬間、顔の模様が消え、フォルネは倒れた。
「フォルネ!」
「あ……? ゴブリン、倒したのか?」
あの時の記憶は、無いみたいだ。
あれは何だったんだろう。
宿に戻ったら、ゆっくり話そう。
◆ ◆ ◆
「―――ってことがあってさ。」
「なるほど……」
リアムは、今日の任務であったことを教えてくれた。
俺が巨大ゴブリンに踏み潰された後、俺がまるで別人のように変貌して、巨大ゴブリンを一瞬で倒してしまったらしい。
「前もあったんだよな。ブリム達を、ボコボコにした時」
「そう。その時も、フォルネは別人みたいになって、ブリム達を倒したの」
考えられるとしたら二つ。
1つ目は、前にリアムが言っていたように、死にかけると肉体が覚醒する、みたいなもの。
2つ目は、俺の中には、俺以外の人格が居て、何かの条件によって、その人格が表に出てきている、ということだ。
だが、もし別の人格が居るとしても、今までそんな事を言われたことはなかった。
リアムに言われたのが初めてだ。
あー、もうよく分かんねぇ。
「とりあえず、リアムはもう寝ててくれ。俺はトレーニングしてくる」
「行ってらっしゃい! 気をつけて」
もっと強く、強くならないと。
◆ 2日後 ◆
「フォルネ、誕生日おめでとー!」
朝、リアムの部屋に入ると、クラッカーが鳴った。
リアムが、用意してくれたのか。
部屋には飾りがつけてあって、とてもいい。
「あ、宿の人には許可取ってるよ。誕生日パーティーしていいですか? って!」
「リアム、ありがとう!」
あの森で、リアムを助けることが出来てよかった。
パッチン以外に、大切な友人ができて良かった
「じゃ、ケーキでも買ってこよっか! 」
「あぁ、買いに行こう。」
今日は、今までの中で一番楽しい誕生日になった。
◆ ◆ ◆
ランニングを続けていくことで、だいぶ体力がついた気がする。
実際は、数日で体力が付くわけないんだが
それでは、本題に入ろう。
最近の魔神軍の動向が分からないのだ。
以前なら、魔神軍が○○村を襲撃した。
とかを聞いていたんだが、今は聞かない。
誰かが倒してしまったんだろうか?
そしたら、勇者としての面子が総崩れだ。
ギルドなどでも聞いているんだが、誰も知らないようだ。
明日は、王様に魔神軍について聞いてみるのもいいだろう。
「ふー、前よりは疲れないな。 体が慣れてきたのか……」
よし、ランニングも終わったことだし、次は素振りを……
「敵襲!! 敵襲ーーーっ!!!」
街中に、鐘の音が鳴った。
敵襲……?
普段なら、魔物が入ってくる前に門番が討伐するはずだ。
門番でも倒せない魔物が、入ってくるってことなのか。
「あの、今敵襲って!」
「今、門を閉じるので、少し待ってください。フォルネさん」
確か、こいつはバルセルとかいうやつか。
いつも、見張りをしているようだな。
「とりあえず、リアムさんを起こして、城に向かってください。後から僕も向かいます。」
そんなに、緊急なのか。
まさか、魔神軍が来たのか?
いいや、今はとりあえず、リアムのところへ向かおう。
「リアム! 起きろ! 敵襲だ。」
昼の誕生日パーティーの疲れか。
いつもより起きるのが遅い。
無理にでも起こさないと。
「おい! リアム!」
「ん……どうしたの、フォルネ。」
「とりあえず、杖と帽子被って外に出ろ! そして城に向かう」
「え、もしかして何かあった?」
「ああ、そうだよ。良いから早くしてくれ!」
「聞きたいことはあるけど。とりあえず、城に向かうのよね? 急ぎましょう」
「あぁ!」
日々のトレーニングのおかげか、意外と早く着く事ができた。
城に入ると、ガーヴァン王が城門近くに立っていた。
「来ましたね。フォルネ様、リアム様。今がどうゆう状況か分かっていますか?」
「敵襲ですよね?恐らく魔神軍……」
「そうです。貴方達二人には、国民を城まで誘導してほしいのです。」
この間会ったときとは、少し顔つきが違う。
何かに、怒っているような、焦っているような。
そんな顔つきだった。
「分かりました! フォルネ、行きましょう。」
「あぁ……! 行こう!」
「少し待ってください。国の兵士を何人かそちらに付けます。役立ててください。」
「ありがとうございます。ガーヴァンさん。」
ガーヴァンさんは、やっぱり優しい人だ。
国民のためなら、自分の命も惜しまないだろう。
俺も、こんな人になりたい。
「貴方達にお付きさせてもらう兵士、バルセル・ジャムリです。リアムさん、フォルネさん。よろしくお願いします。」
頼もしいな。
だが、こうしている間にも、奴らは近づいて来てる。
でもあいつらはバカだな。
俺達に猶予を持たせるなんて。
今回は前回とは違う、国単位での戦いだ。
強力な冒険者も集まっている。
これは、勝てる。
「とりあえず、門に近いところから声をかけましょう。城の近くに住んでいた人々は、すでに集まっています」
「分かりました」
日々のトレーニングの成果を発揮するときが、来たようだ。
「では、行きましょう!」
「とりあえず、リアムは宿屋を、他の方々は民家に!」
そして、息のあった連携のおかげで、たったの3分で全員を助けることができた。
順調だ。
だが、まだ安心しきっては駄目だ。
魔神軍が、まだ残っている――――
爆発音が、城の方から聞こえた。
そうか。
少し考えれば、分かることだった。
城には多くの人間が集まっている。
分かっていたことだ。
何故、防げなかった。
己の弱さに腹が立って、まえがみえなくなる。
剣を構えて、思い切り飛んだ。
「うぅァアアアアアアアっ!!!」
「駄目! フォルネぇええ!!!」
俺は、自分を抑えきれなかった。
コールド・ザ・デーモン 〜悪魔の名をつけられた勇者〜 猫兎幸心 @anirame1225
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