転生任侠録:龍の誓い
マスターボヌール
第1話 転生
「親分、これで最後っすね...」
血まみれの倉庫で、俺は最後の煙草を吸っていた。三十年間、裏社会で生きてきた。筋を通し、仁義を重んじ、弱い者を守ってきた。後悔はない。
銃声が響いた瞬間、意識が途切れた。
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「ほら、起きろ!商品が傷んじまう!」
鞭の音で目が覚めた。体が...軽い?見下ろすと、シワだらけだった手が若々しくなっている。二十代前半の肉体だった。
「こいつも奴隷市場行きだ。魔法使えるかどうかは知らねぇが、若いから金になるだろう」
周りを見回す。檻の中にいる。他にも十数人の男女が鎖で繋がれていた。皆、絶望的な表情を浮かべている。
*(転生...ってやつか。まさか俺がこんな目に)*
記憶ははっきりしている。桐島組三代目組長、桐島竜一。それが俺の前世の名だった。
「おい、新入り」隣の痩せた男が小声で話しかけてきた。「諦めるな。まだチャンスはある」
「チャンス?」
「奴隷市場で買われる前に逃げるんだ。ただし...」男は首を振った。「今までに成功した奴はいない」
翌朝、荷車で運ばれる途中のことだった。
「やめろ!離せ!」
若い女の悲鳴が聞こえた。奴隷商人の一人が、十代後半らしき少女を荷車から引きずり出している。
「ちょっと味見させてもらうだけだ。商品の質を確かめないとな」
男たちの下品な笑い声。他の奴隷たちは怯えて目を逸らしている。
*(クソが...前世から変わらねぇな、この手の外道は)*
俺は静かに立ち上がった。
「おい」
奴隷商人が振り向く。「あ?黙って座ってろ」
「筋の通らねぇことはやめときな」
「はぁ?こいつ何言ってやがる」
俺は鎖を引きちぎった。前世の記憶だけでなく、なぜか身体能力も大幅に向上している。魔法の影響か?
「な、なんだと!?」
「テメェら、よく聞け」
俺は一歩前に出た。拳を握る。この感覚、懐かしい。
「俺のルールは簡単だ。弱い者いじめはさせねぇ。女子供に手を出す外道は許さねぇ。そして...」
奴隷商人の一人が剣を抜いた。「うるせぇ!」
剣が振り下ろされる瞬間、俺は一歩踏み込んだ。
*(極道流・昇龍拳)*
下から突き上げるアッパーカット。男の体が宙に舞い上がり、荷車に激突した。
「化け物め!魔法使いか!」
「魔法?」俺は首をかしげた。「これは拳だ」
残りの三人が一斉に襲いかかる。だが、前世で鍛えた体術に加え、この若い肉体の身体能力。敵になるわけがない。
三十秒後、奴隷商人たちは全員地面に転がっていた。
「あ、あの...ありがとうございました」
助けた少女が震え声で礼を言った。他の奴隷たちも呆然と俺を見ている。
「エリカです。魔法学院の生徒でしたが、借金のカタに...」
「詳しい事情は後で聞く。まずはここから離れるぞ」
鎖を全員分引きちぎりながら、俺は考えていた。この世界には「仁義」という概念がないらしい。弱肉強食が当たり前で、筋も義理も通らない。
*(だったら、俺が教えてやる)*
「あの、お名前は?」エリカが聞いた。
「竜一だ。桐島竜一」俺は振り返る。「お前ら、行くあてはあるのか?」
皆が首を横に振った。家族を殺され、故郷を追われ、身寄りのない者ばかりだった。
「なら決まりだ」
俺は拳を握りしめた。
「俺たちで組を作る。この世界にも仁義は通じるってことを、証明してやろうじゃねぇか」
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その日から、俺たちの戦いが始まった。
魔法と剣が支配するこの異世界に、一人の極道が「仁義」を持ち込んだ。
最初は十二人の小さな組織だった。だが、筋を通し、弱きを助け、約束を守る俺たちの姿を見て、次第に仲間が集まってきた。
「親分、次はどこに向かいますか?」
エリカが地図を広げる。俺は煙草...この世界では「魔草」と呼ばれる嗜好品を吸いながら答えた。
「王都だ。この世界の裏社会がどんなもんか、見せてもらおうじゃねぇか」
夕日に向かって歩く俺たちの影は長く伸びていた。
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