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道は、
昨日よりもさらに急な斜面を、木の根や岩に
時折、道が
水上は時折、立ち止まって
数時間ほど歩き続けた後、源兵衛は、沢近くの少し開けた場所で足を止めた。
「ここで
一行は、それぞれ岩に腰を下ろし、水筒の水を飲んで息を整えた。
志乃は、沢の冷たい水で顔を洗い、
志乃はそして、岩に腰を下ろして
「
その問いに源兵衛は、遠い目をして、一行が登ってきた谷の奥深くを見つめた。
彼の顔には、深い
「……神邑、か」
老人は、ゆっくりと語り始めた。
「あの村は、この先の
「では、お父様は…」志乃は、当然の疑問を口にした。「父は、ただの行商人だったと聞いております。どうやって母と?」
その問いに、源兵衛は
「…あんたの
源兵衛の言葉に、志乃は息を
「千代は、お前さんと同じ『
老人は紫の煙を、澄んだ山の空気の中に、ゆっくりと吐き出した。
「命の恩人である千代に、あんたの親父さんが
その口調には、どうしようもない
「そして、千代は村を捨てた。わしらはそれを、ただの裏切りだとしか思えんかった。村の
話し終えた源兵衛は、すっくと立ち上がった。
「…さて、行くぞ。陽は待ってはくれん」
そして一行は、再び険しい
道は次第に険しさを増し、一行は言葉少なに進んだ。
太陽が
「ここで
一行は、小さな沢のほとりに腰を下ろした。
志乃は、用意してきた握り飯を皆に配りながら、隣に座った水上に、意を決して話しかけた。
「水上さん」
「はい、何でしょう」
「神邑の跡地に着きましたら、皆さんの魂を弔いたいと、そう申し上げました。ですが、私には、どのような準備をすればよいのか、全く分かりません。古くからの
その問いに、水上は食べていた握り飯を置くと、
「…ええ、もちろんです。あなたがそのように考えてくださることは、我々にとっても、そしてこの地に眠る魂にとっても、何よりの救いとなるでしょう」
彼は、学者としての知識を
「
水上は、沢の流れを指差した。
「祈りの場は、必ずしも立派な社である必要はありません。清浄な場所を選び、四方に
「では、祈りの言葉は…」
「それこそが、最も重要です」水上は、その視線を真っ直ぐに志乃に向けた。「古い
水上の言葉は、志乃の心の中にあった、
特別なものは、何もいらない。
ただ、この山にある清らかなものと、自分の心からの言葉があればいい。
「ありがとうございます、水上さん。私、やってみます」
志乃の顔には、もう迷いはなかった。
彼女は、沢の水を一口飲むと、まだ見ぬ神邑の村の方角を静かに
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