33
彼らが向かっているのは、ただ
この国の神話が生まれた、
風の音、木々のざわめき、その全てが、得体の知れないものの
その重い沈黙を破ったのは、これまでほとんど口を開かなかった、
彼は、それまで一行の後方で、影のようにその身を
「
その声には、
「これから我々が足を踏み入れるという
巌の問いは、自らの役割を深く理解しているからこそのものであった。
彼の役目は、志乃を守ること。
そのためには、敵の正体を正確に知る必要があった。
源兵衛は、その岩のような
そして意外なことに、ふっと、その口元を
「……おめえさんのその腕っぷしは、ここでは何の役にも立たんかもしれんぞ」
その言葉は、決して巌を
「神の庭で、まず守るべき
源兵衛は、拾った枝で、地面に奇妙な印を描いた。
「二つ、目に見えるものを、真実と思うな。山のモノノケは、人の心の
そして、源兵衛は、その鋭い
「そして、三つ目。この山で一番恐ろしい敵は、玄洋会の連中でも、モノノケでもねぇ。おめえさん自身の、心の中にいる。恐怖、焦り、仲間への疑い…そんな心の
源兵衛の言葉を、巌は
やがて、彼は深く、そして力強く頷いた。
「……
そのやり取りを、志乃と水上は、息を殺して見守っていた。
ただの護衛と案内人とではない。
これから神域に挑むにあたり、守る者と導く者との間で、
巌の誓いの言葉は、静かだが、その決意の重みを強く感じさせた。
そして、そんな重い沈黙を破ったのは、源兵衛の、厳しいながらも張りのある声だった。
彼は、傾きかけた太陽の位置を、
「覚悟が決まったようだな。結構なことだ。だが、
老猟師のその一言は、一行の心を現実に引き戻し、再び
水上も巌も、その言葉に力強く頷く。
志乃もまた、その言葉に、これから進むべき道が、ただひたすらに険しいものであることを改めて覚悟した。
一行は、再び険しい獣道を進み始めた。
しかし、先程までとは、明らかに場の空気が違っていた。
ただの案内人と護衛に守られた少女、ではない。
四人は、それぞれの役割を自覚し、一つの目的のために進んでいった。
道は、もはや道と呼べるようなものではなかった。
人の
先頭を行く源兵衛の足取りは、老人とは思えぬほど確かで、一切の無駄がない。
彼は、時折立ち止まっては、風の匂いを
やがて木々の密度が濃くなり、陽の光さえ届かない暗い森の深みへと入っていく。
空気は、ひやりと肌を刺すように冷たくなり、湿った土と
帝都で生まれ育った志乃にとっては、全てが初めて体験する、
数時間、ひたすらに歩き続けた後、源兵衛は不意に足を止めた。
目の前には、巨大な岩が、まるで家のようにそそり立っている。
その
「…着いた。今夜の宿、
源兵衛が、息一つ切らさずに言った。
「本当の熊の
その言葉に、一行は改めて、自分たちがただの山登りをしているのではないことを実感した。
ここは、人の世の
日が暮れ、山の闇が深まるにつれて、その気配はますます色濃くなっていった。
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