二章

第26話 セイントアロー


 依頼を達成した翌日の朝。

 太陽がサンサンと煌めく中、俺は屋敷の庭で聖魔法の練習を行っていた。


 以前に習熟度の伸びたセイントアローを習得したい。

 そのため前と同じことをしてみようと思う。


「蒼真ちゃん頑張れー」


 そして本日は母上が俺の練習を見に来ている。

 母上はもう魔法について知らないフリをする必要がなくなったからな。


 とりあえず普段通りに練習するとしよう。


「セイントアーマメント!」


 俺はセイントアーマメントを発動して、不思議な光を纏った。

 その光を外へと広げていくようにイメージしてみる。


《セイントアローの熟練度が2上昇しました》


 うん。少し伸びた。

 でも上がる数値が低いので、このままだと効率の悪い練習ということだ。


 いつものごとく、効率のいい練習方法を試してみねば。


「以前に聖魔法の練習をした時は、太陽の光に当たったらよかったよな」


 ということで黒い服を着こんで、セイントアーマメントを発動してみた。


《セイントアローの熟練度が2上昇しました》


 残念ながら特に伸び率に変化はない。

 つまり真っ黒の服を着ても意味がないということだ。暑いから脱いでこよう。


 屋敷に戻って着替えてから再開。

 次はなにか目標に向けて、レーザーを撃つみたいなイメージでやってみるか。


 えーと……近くにある岩でいいや。

 俺は両手にMPを集中させて、セイントアーマメントを発動。


 両手の光を某かめは〇波の構えで、放つ雰囲気を出してみる。

 いやビーム放つとなると、どうしてもあのイメージがね……。


《セイントアローの熟練度が3上昇しました》


 お、さっきよりは上昇値が増えた。

 やはりイメージを持つのは大切か。でもまだ熟練度上昇値が低いな。


 うーん。セイントアローはゲームでは光の弓を放つ魔法だ。

 ならば弓矢を強くイメージしたほうがよさそう。


 よし。母上に実物の弓矢がないか聞いてみよう。

 陰陽術の名家だし刀や弓くらいあるでしょ。


「母上。弓矢ってありませんか?」

「あるわよ。弓道場があるから行きましょう」


 母上に案内されて離れにある建物に入ると、本当に弓道場だった。

 少し離れた場所に的があって、弓道などでよく見る場所そのものだ。


 ……こんな道場まで庭にあるとは知らなかった。

 いや建物があるのは知ってたけど、まさか弓道場だったとは。


 うち、本当にお金持ち……。


「蒼真ちゃん。これが弓矢よ。子供用だけどね」


 母上が弓と矢を持ってきてくれた。

 うわ本物の弓矢だ。ええと……あれ? これどうやって撃つんだ?


 漫画やアニメで見てるけど、具体的な細部がわからない!

 前世でシャーペンで書こうとすると、漢字の細部が分からないみたいなアレ……。


 PC変換に慣れると漢字書けなくなるよね……細部が分からなくてさ。


「蒼真ちゃん。弓の棒のお尻部分に、矢筈という切れ込みがあるでしょ? そこに弦にひっかけて引っ張ればいいの」


 母上が俺の両手を掴んで、手取り足取りで弓の構えをさせてくれた。

 ……矢の棒の切れ込みを知らなかったのは、俺が無知過ぎるだけだろうか?


 とりあえず矢を引っ張れたので、矢を手放してみる。。

 すると矢は思ったよりも強い勢いで飛んでいき、すぐに地面へと激突した。


 ……的までの距離の半分も届かなかったな。

 八歳の筋力だとこんなものか。


《セイントアローの熟練度が10上昇しました》


 よし。弓のイメージが強くなったから、セイントアローの熟練度が上がった。


「そうそう上手ね。ちなみに矢じりを丸くしてるけど、壁に当たったら削れたりするからね」


 へー。弓ってそんなに威力があるんだ。

 何万年以上も使われていた武器は伊達じゃないってことか。


 冷静に考えたら何万年も使われてるってすごいな。

 最初に弓を考えた奴、下手したらノーベルよりも発明王では……。


 よし。次は矢に聖魔法の光を付与するイメージを持ってみよう。

 そういうわけで矢を放ってみると。


《セイントアローの熟練度が15上昇しました》

 

 ふむふむ。

 セイントアローは弓矢を放ちながらの練習がよさそうだな。


 本音を言うともう少し熟練度の伸びが欲しい。

 何度も繰り返すと熟練度の上昇値が下がるからな。


 でも他に練習効率を上げる方法が思いつかないので、ひとまずこのまま繰り返すことにした。


 パシッ、パシッ、パシッ。

 矢が何度も放たれていき、熟練度の数値が頭に響く。


 12上昇しました。10上昇しました。8上昇しました……やはり徐々に下がっていくな。

 

 すると周囲が急に薄暗くなってしまった。


「大変! 雨が降るわ! お母さんは洗濯物を入れてくるわね!」

「手伝おうか?」

「大丈夫。お母さんだけで十分だから」


 そう言い残して母上は弓道場から出て行ってしまった。

 さてすぐにでも雨が降りそうな状況だが、このまま練習を続けるべきだろうか?


 まるで夜みたいに暗くなってきたので、気分的にはそろそろ終わりたい。

 周囲が薄暗いとやる気なくなるよね……。


 熟練度の伸びも落ちて来たし、もう少し効率のいい方法を考えるか。

 よし最後の一射にして終わろう。


 俺は最後に多めにMPを使って、光の矢を打ち放った。

 周囲が薄暗いのでこれまでよりも矢が眩しい。


《セイントアローの熟練度が上昇しました》


 えっ!? 50!?

 いきなりこれまでの最高伸び率を大幅に更新したぞ!?


 ……もしかしてMPを多めに消費したからか? 

 そうに違いない! 他に変えたところないし!


 よしもう一度試してみよう。今度はさらにさっきのMPの二倍だっ!

 これで倍ほど上昇値が伸びるはず!


《セイントアローの熟練度が上昇しました》


 伸びませんでした。

 な、なぜだ……いったいどうして……。


 俺は何度か矢を放ち続けた。

 MPの消費を増やしたり、今度は逆に減らしてみたりと試す。


 45上昇しました。43上昇しました。41上昇しました……。

 えー、MPの消費量と熟練度は関係ありません。


 じゃあなんで急に伸びたの!? なにかゾーン的なモノに入ったの!?


 すると周囲が明るくなりはじめる。どうやら雨雲が去ったらしい。

 そんな時にさらに弓を放つと。


《セイントアローの熟練度が上昇しました》


 熟練度がほぼ上昇しなくなっていた。

 ……あ、もしかして。


「暗いところで練習したほうが伸びるのか?」


 そういうわけで夜に練習してみたら、また熟練度が40くらい上昇した。

 俺は夜の道場で燭台をいくつか置いて、矢を放つ訓練を続けることにした。


 どれくらい練習したかも分からなくなった頃。

 とうとう弓で放たれた矢と分裂するように、光で構成された矢が発射された。


 本物の矢は地面に刺さったが、光の矢は矢の的へと直撃して霧散する。


《セイントアローを取得しました》


 よっしゃ! セイントアローを習得完了!

 よし。今日は疲れたし家に入って寝よう、と思ったのだが。


「行くぞ」


 ――背後からいきなり声がした!?

 振り向くと父上が腰に刀をつけて立ってる!?


「え、ど、どこにですか?」

「墓場だ」

「え? いやあのいまは夜……ちょっ!? 腕を引っ張らないで!?」


 俺は父上に手を引っ張られて連行されるのだった。


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二章開始です。

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