第25話 事後処理


 俺たちは塗り壁を倒した後、天文院へと戻って来た。

 そして管爺の書庫へ行き、達成報告をしに来たのだが。


「おい。依頼札に魂が宿っておらんぞ」


 とさっそく突っ込まれてしまった。


「塗り壁は倒しました。でも魂を滅さなかったから依頼札に宿らなかったので……」

「封印したのか? それなら封印物を見せい」

「いえあの。普通に倒したのですが、魂は滅してなくて」

「なにを言ってるんじゃお主は」


 駄目だ。管爺への説明が難しい!

 霊力で倒した妖怪は祓われるのが常識だからなあ!?


 これ俺の力を最初から説明しないと駄目な感じ?

 霊力じゃなくて魔力なのでというのを、一から説明必須? 


 ……出来れば避けたい。

 俺の魔法はこの世界では異質だ。下手に知られると狙われたりする危険もあるかもしれない。


 言っては悪いのだが、この管爺が信用できるか分からない。

 以前の病院でヒールしたのはいいのかって? 


 魔法を見せるならともかくとして、仔細を説明するのは嫌だってだけ。


「管爺。九条蒼真が言っていることは正しい。このの名に賭けて証明してやる」

「お前のそのふざけた偽名は、外れ馬券程度の価値しかないじゃろうがっ! その顎鬚剃っちゃるぞ!」


 外れ馬券でちょっと笑いそうになってしまった。

 でも偽名を賭けても説得力皆無だよなそりゃ。


「とにかく! 九条蒼真が塗り壁を倒して、異変を解決したのは事実だ。依頼は達成している。流石に嘘は言わないぜ」

「……儂も嘘とは思っておらん。じゃが弱ったな。札、もしくは封印物と交換で報酬を渡す規約なんじゃが」


 どうやら魔法は想定されてない規約のようです。

 ジリリリリ。近くの台に置いてあった黒電話が鳴り始めた。


「む? ちょっと出るから待っておれ。もしもし儂じゃよ。む? ええ、はい。ふむふむ、承知しました宗匠」


 管爺は電話をガチャリと切った後、俺たちの方へと戻ると。

 

「報酬を持って来るから待っておれ」

「いいんですか? 依頼札も封印物もないですが」

「宗匠からのお達しじゃ。九条蒼真が祓った妖怪に関しては、依頼札が魂を吸っておらずとも達成と見做せとな」


 管爺はそう言うと近くにある箪笥タンスに手をつけた。


「宗匠の御名の元、解放せよ」


 管爺が箪笥タンスに貼ってあるお札を剥がすと、引き出しのひとつが勝手に開かれる。

 そして管爺は開いた引き出しに手を突っ込むと、俺たちの元へと戻ってきて。


「これが今回の報酬。じゃ」


 ちゃぶ台の上に札束をドンと置いた。

 百、円? いや札束を置かれてそんな子供の小遣いみたいなの……あっ違う!?


 この世界は物価価値が違うんだ!

 明治時代みたいに円のほかに銭とか厘があるんだった。


 えーと。たしかこの世界では一円=一万円だから……。

 ひゃ、ひゃ、百万円!? たった一日の依頼で百万円!?


 そ、それって月収三千万円も夢じゃないってこと!? 

 い、いやみんなで分けるから四分の一か。それでも月収七百五十万円!?


「おい九条蒼真。なにを驚いている」


 アゴヒゲ教師に怪しまれてしまった。

 少し挙動不審になってしまっていたようだ。


「い、いえ。まさか一日の依頼でこんな大金がもらえるとは……」

「なにを言ってやがる。本来なら熟練の祓魔師でも、一週間は必要な依頼だったんだぞ。それくらいは当たり前、なんなら少し安いくらいだ」


 や、安いんだ……。

 おいおい。八歳で数十万の大金を得てもいいのか?


 俺が普通の子供なら金銭感覚がバグるぞ?

 お札に火を灯して明かりにするようなハゲオッサンになるぞ?


「ほら誰か受け取らんか。それでさっさと分けろ」


 管爺に勧められるが、誰もお金に手をつけようとしない。

 どうやら他の皆も俺と同じく、まともな金銭感覚をお持ちのご様子。


「……九条蒼真。貴方が受け取りなさい」


 すると二条さんが不機嫌そうな顔で腕を組んでいる。

 こういう時に受け取りそうなんだけどな。


 とりあえず俺は百万円、いや百円の札束を受けとり、束をくくっている小さな札を外す。

 さ、さて。この百円を正確に四等分にしないと。


 一枚の数え間違いで友情破壊とかあり得そう。緊張するなあ……。


「じゃ、じゃあ四等分にするね。ちゃんと正確に分けるけど、もし万が一に数え間違いがあったらすぐに報告を……」

「二条楓は受け取らないわ」


 二条さんはなおも不機嫌そうにそっぽを向いている。

 え? 二十五万円を受け取らない!? そんなバカでしょ!


 二十五万円だぞ!? 二カ月は暮らせる大金だぞ!?

 どんな理由かわからないが、ここは精神年齢が上の俺が注意せねば!


「二条さん駄目だよ。お金はね、すごく大事なんだよ。将来、きっとこの二十五ま……二十五円を後悔することが……」


 子供の小遣いみたいな額だが、実際は二十五万円である。

 あまりお金を使わないから、前世の金銭感覚がなかなか抜けない。


「わ、私も受け取れないかな……」

「以下同文」


 なんと六紋さんや猫飼さんまで!?

 いったいどうして!? 君たちは祓魔師じゃなくて、無欲な聖人なのか!?


「ど、どうして……」

「だって塗り壁を見つけたのも、倒したのも蒼真君だし……受け取る資格がないよ。だからね?」

「私は床で転がっていただけ」


 六紋さんが申し訳なさそうに笑い、猫飼さんが何故か胸を張った。

 二条さんはなおもこちらを見ようとしないので、二人と同じことを考えているようだ。


 なるほど。そういうことか、それならば。


「いや六紋さんは塗り壁を抑えてくれたじゃない。二条さんも塗り壁を風で包囲してくれたし、猫飼さんは……」

「私は?」

「猫飼さんは……」


 ……あれ? 猫飼さん、言うほどなにもしてないな?

 なんか床を転がっていたイメージしか……。


「ち、遅刻しなかったし」

「うむ」


 あ、庭探しの時に猫を使ってたな。そっちを言えばよかった。

 

「とりあえずちゃんと分けよう。今回は俺が活躍したけど、次は他の人が活躍するかもだし」

「嫌よ。二条楓は受け取らないわ」

「二条さん。お金はね、凄く大事なんだよ。将来、あの時の二十五円があれば……! おのれ九条蒼真……! なんてことになるんだよ。だから是が非でも受け取ってもらう!」

「く、九条蒼真? なにかお金で辛い経験でもあったの……?」


 ちょっと毎月の家賃に困っていて、サラ金で借りるか悩んだ程度です。

 とにかくお金は大事だ。金の恨みほど恐ろしいモノはない。


 この世界だと悪霊とかいるし、お金で恨まれて怨霊に襲われたらたまったもんじゃない。


「教師としては四等分を推奨するぜ。実際、金の恨みで空中分解した班は多いからな」


 アゴヒゲがアゴヒゲを触りながら呟く。

 それを聞いて三人は顔を見合わせた後。


「……わかったわ。でも九条蒼真、次はこの二条楓の方が活躍するわ。それまで借りにしておくわよ」

「私も次はもっと頑張るから!」

「わーい」

 

 三者三様で返事してきたので、ちゃんと四等分してお金を分けたのだった。

 しかし二十五万円かあ……明日も働くべきでは!?


 稼げる間に稼いでおけば、老後の心配も減るわけで。

 ああ、いや。でも危険な仕事だしもう少し慎重に考えよう。


 今回の塗り壁との戦いでも、わりと危険だったからな。

 六紋さんに抱っこして助けてもらわなかったら、塗り壁に潰されてた恐れもあるし。


 やはり魔法の修行を優先しよう。

 しかし今回の依頼は色々と自分の至らなさを痛感した。


 俺は現状、攻撃しか出来ない。

 他のみんなは様々な事態に対応する手を持っているが、俺は手札が少なすぎる。


 だが逆に言えば伸び代があるということだ。

 今でも攻撃は相当優秀なようだから、これで色々な手が増えればもっと強くなれる!


 よしこれからも頑張ろう。

 目指せ、勝ち組の祓魔師だ!



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これで一章は終わりです。

この作品の方向性は示せたと思ってます(∩´∀`)∩

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