第6話 サンダー
俺は六歳になった。
もう小学校に通い始める年齢……ではない。
「陰陽師の家系は十二歳からの特別な学校に行くから、小学校には通わないのよ。そういうわけでお勉強しましょうね」
そういうわけで俺は母から算数や国語を習っている。
陰陽師は霊力が安定する十二歳になったら、陰陽術の学校である天文院に通うらしい。
それまでは普通の学校には行かないそうだ。
「でも天文院に通うまでは、小学校に行くのは駄目なの?」
「十二歳になってない子は霊力が安定しないから、周囲に同じ年齢の子がいると霊力が他と混ざる危険があるの。なので安定してから天文院に通わせるのが伝統なのよ」
伝統なら仕方ないな。
日本人のDNA的にも『郷に入っては郷に従う』って感じだし。
「ちなみに他人と霊力が混ざったらどうなるの?」
「霊力はその人の芯となるもの。他者と混ぜれば性格が変わってしまったり、下手をすれば身体が妖怪変化を起こして……!」
よし。十二歳までは頑張って自力で鍛えよう。
ただ俺って霊力じゃなくてMPだけど、変な影響とか出ないよね?
大丈夫と思うことにしよう。考えても仕方ないし。
「蒼真ちゃんはすごくお利口ね! もう九九が暗唱できるなんて!」
前世ではとっくに成人していたのだから、小学校レベルの勉強は簡単すぎる。
――と言えるほど余裕はない。
いや小学校高学年の算数って難しくない?
ニュートン算とかつるかめ算とか、ガチな問題は簡単な数学より難易度高いと思う。
「じゃあ庭で陰陽術の練習をしてきます。あ、今日の夕餉は
今日の俺はとある属性の魔法の練習がメインのため、その成長を促進する食事がいい。
いや食事ってすごく重要なんだよ。その日の食事次第で、ステータスの伸びが倍近く跳ね上がったりするからな!
ボディービルダーが鳥ムネを好んで食べて、プロテインをしっかり飲むようなものだ。
「わかったわ。頑張ってねー!」
俺は部屋から出て庭へと向かった。
ところで母は勉強はしっかり教えてくれるのだが、肝心の陰陽術については全然なにも言ってくれない。
以前に陰陽術を教えてと頼んでも、「まだ早いから自分で学んで」と言われてしまったのだ。
……もしかして俺が陰陽術じゃなくて、魔法を使ってるのがバレてる?
少なくとも怪しまれてそうだな。
でも隠しきれるものでもないし、向こうがなにも言ってこないならいいとしよう。
そういうわけで俺は庭で魔法の練習を行うことにした。
夏も近づいているので少し暑いが我慢だ。
さていまの俺のステータスを確認しよう。
===================
九条 蒼真
男:6歳
状態:健康
MP 120/120
筋力:72
敏捷:61
器用:109
知力:520
魔法:100
スキル
転生者、??の呪刻、
使用可能魔法
フレイムアロー、ウインドバレット、
エンチャントフレイム
===================
ステータスは順調に伸びていて、『使用可能魔法』なる欄が増えている。
あと『ミニフレイムアロー』➡『フレイムアロー』と魔法が進化したりもした。
魔法進化はドラゴンマジックのゲーム通りの仕様だから、特に問題はなさそうだ。
力を絞ったフレイムアローなら、ミニフレイムアローみたいに撃てるしな。
そんなこんなで二年の修練によって、俺は順調に成長しているのだ。
さてそれで今日はなにをするかというと。
「雷魔法を使ってみたいよな」
なので雷魔法の習得を目指しているのだが。
――少し苦戦中なのである。
「雷って実物を見るのが難しいからなあ……」
火はいたるところにあるし、風はいまも俺の周りを吹いている。
だが雷はお天道様の気まぐれというか、雨の時にピッカリ光るくらいだ。
つまり身近な存在ではない。
機械の雷撃がショートする映像を見たことはあっても、実際に機械がショートするのを見たことは少ないだろう。
流石に「機械をバチバチさせたい」なんて、母に頼むわけにもいかない。
どう考えても止められてしまう。そのため今まで後回しにしていた。
「でもなあ……アレを知ってしまうとなあ」
実は先日、母に聞いた昔話がある。
内容をかいつまむと『水ぬり壁と戦った陰陽師が、対抗策がなくて溺れ殺された』という話だ。
この水ぬり壁というのはようは壁の形をしたスライムだ。
陰陽師がスライムに取り込まれて脱出できず、苦しみながら溺死したらしい。
そして吐き出された死体は、それはそれは苦悶の表情をしていたと……。
ようはいろんな妖怪への対抗策を用意しておこうという話だ。
今の俺は炎、風の魔法が扱える。
だがそのどちらでも有効打の与えられない属性がある。
それが水属性だ。スライムを想像して欲しい。
炎はほぼ効かないし、風も相手の身体を揺らすだけになってしまう。
そういう相手を倒すにはやはり雷だ。
水ぬり壁(スライム)が出てきても、溺死なんぞさせられてたまるか!
というわけで俺は秘密兵器を使って、雷魔法の練習をすることにした。
さっそく着物の
「雷も電気だ。なら電池でイメージできるはず!」
さっそく電池を強く握って、雷のイメージを強く浮かべる。
そして電池を握っているのとは別の手に、MPを集中し始めた。
さあ出ろ! 雷よ!!!!
……
…………
………………。
――出ませんでした。
ついでに言うなら習熟度の上昇もこないので、この練習はまったくの無意味である。
な、なぜだ……名案だと思ったのに!
だが俺にはまだいくつもの策があるのだ。
次は乾電池二本を手でこすり合わせてみよう。
ほら電池二本擦ったら、電気が少し回復するって言うじゃん。
つまり電気が生み出せてるわけで、なら雷魔法のイメージが上がるだろ?
そういうわけで俺は両手にMPを集めて、電池を必死にこすり合わせ始めた。
ゴシゴシゴシゴシガチャゴシゴシ
そうして三十分ほど経過した。嫌な手汗まみれの中、俺は理解した。
この練習では無意味なのだと。
ステータス君は無情である。俺の頑張りが間違っていれば、まったく何も言ってくれないのだ。
そうして日が暮れてしまったので、今日は諦めることに。
夕餉に出された
違うんだ。本当ならお前をムダに食べるんじゃなくて、雷魔法を伸ばすつもりだったの……。
さて翌日、また同じように庭で練習をし始める。
俺は昨日の夜に改めて考えた。電池で雷をイメージする発想は悪くなかったと思う。
ただ電池は単品では電気を出さない。なので駄目だったのだろう。
つまり電気を出せる物ならいいのでは?
そう思った俺が用意したのは、薄っぺらいプラスチック製の下敷き!
もう分かるよな? 俺は頭を下敷きでこすって、静電気を起こそうとする!
静電気だって電気、つまり雷の一部みたいなものだ!
伸びろ雷魔法の習熟度! さあ俺に雷の力を!!!!
ゴシゴシゴシゴシゴシ!!!
すると下敷きによって俺の髪の毛がくっつき、ふわっと浮き上がった!
……いや俺なにやってるんだろ。
こんな子供の遊びで雷魔法が伸びるわけ……。
《雷魔法習熟度が5上昇しました》
ヒャッハー! これから毎日下敷きをこすり合わせるぜ!!
いや待て。習熟度の上昇値が低い。
炎魔法は最初に100とか伸びてたもんな。
それを考えると下敷き練習法では、すぐに上昇値がゼロになってしまう。
つまりやり方が間違っているわけだ。
たぶん電力不足とかそういうの。いやな単語だなあ。
ただ電力不足の解消って難しいのよな。国全体でも問題になってるレベルだし。
というか暑い。そろそろ夏だしクーラーなしではやってられん。
ん? 夏? クーラー……そうだ、思いついたぞ!
俺は気づいてしまった。最高率の雷魔法練習をするには、どうすればいいのかを。
その答えはこれだ。
「よし。冬に毛皮モコモコセーターを着て練習するか」
そうして俺は冬に静電気バリバリにまとって、雷魔法を習得するのだった。
時期を選んで効率よく練習する。それもまた努力だ。
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