第37話 緊張
クルトと揃いの色の衣装に身を包んだカタリナは、今日はクルトのエスコートで飛空艇に乗り込んだ。
カタリナと五メートル距離をとって朝食を食べようとしていた、一週間前のことを思えば大きな進歩である。
しかもクルトは飛空艇の中でも隣に座り、カタリナの手を握ってくるではないか。
(殿下、どうしたの!?)
カタリナは内心かなり動揺していた。
「殿下……飛空艇の中では手はつながなくても良いのではないですか?」
思い切って聞いてみた。
「今日は離れないと約束してくれたじゃないか……」
クルトが沈んだ顔でそう言うから、「そ、そうですね……」としか言えなくなってしまった。
カタリナが手を離すことを断念すると、クルトは満足気な顔をした。
ふと周りを見ると、ゲルトとエレオノーラ夫妻がにこにこしながらこちらを見ていた事に気が付き、カタリナは赤面した。
カタリナは開いている方の手で顔を扇ぎながら、窓の外を眺めた。眼下には山頂に雪を残した山々が連なっているのが見えた。
一行が向かっていたのはシュテルン王国とズィマ帝国、二つの国と接しているカノワ王国だ。そこの首都シャワで本日の調印式は行われる。
「殿下はシャワには行ったことがあるのですか?」
「学生時代にな。とても綺麗な街だよ」
「そうなんですね」
綺麗な街とはどんな街なんだろうか。カタリナはどんな街なのか想像しながら、空の旅を楽しんだ。
※
シャワ王宮のすぐ前の広場に着陸した。見物の為か広場には沢山の人が集まっていた。
先にゲルトとエレオノーラ夫妻が飛空艇を降りると割れんばかりの歓声があがった。
続いて、クルトとカタリナも手を繋いで飛空艇を降りた。眩しい日射しで一瞬目を細めたカタリナだったが、集まった大群衆と美しい広場を見て、すぐに目を見開いた。
「カタリナ、離れないで」
「分かってますよ」
広場ではクルトの腕につかまって歩いた。エレオノーラが笑顔で群衆に手を振っていたので、カタリナもそれに倣った。
カタリナは集まった人たちを見て、今更ながら手が震えてきた。
(自分から出席したいと言ったのに、弱音は吐きたくない)
緊張しないように、ゆっくり呼吸をして前を向いたが、それでも震えは止まらなかった。
「緊張してるの?」
「してまてん」
ちょっと噛んでしまった。
クルトがフッと笑ったので、カタリナはムキになった。
「緊張なんかしてません!」
「別に緊張してもいいよ」
クルトの言葉は少なかったが、しっかりと前を見て歩くクルトを見ると、カタリナは少しだけ震えがおさまるのを感じた。
もし、カタリナが転びそうになったとしても、クルトなら難なく支えてくれるのだろうという気がした。
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