第36話 数日ぶりの再会

 調印式前日の夜にクルトは王宮へとやってきた。


 今日のカタリナは王子たちに絵本を読み聞かせていた。王子たちの部屋の窓をノックする音がして、振り返るとそこにクルトがいたのだ。

 てっきり現地で会うことになると思っていたカタリナは驚いた。


「殿下!? なぜこんなところに?」


「君に会いに来たんだ……」


「私は帰りませんよ! 明日の調印式に出て、職務を全うするのです!」


「うん……もうそれでいいから、君と話がしたい」


「え…… 分かりました……」


 カタリナは王子二人の額にキスをしてから窓を開け庭園へと出た。




「少し歩こう」


 クルトがそう言うので、二人で王宮の庭園を歩いた。月の光が二人を照らしていた。


 庭園の東屋の椅子にクルトが座り、カタリナも向かい側の椅子に座った。


 クルトは空を見上げて静かに話し始めた。


「ここから月を見たのはいつぶりだろうか……カタリナが煤を祓ってくれたのか?」


「そうですね。また煤風邪になりたくなかったので、魔石樹を一本植えさせてもらいました。だいぶ空気が澄んできましたね」


「ありがとう。もう王都では二度と星なんて見られないと思っていた」


(クルトはそんな話をする為にわざわざ来たのだろうか?)


 秋の風が吹いて、カタリナの頬を撫でた。肌寒さを感じて、カタリナが自分の体を抱いていると、クルトが軍服のジャケットを一枚脱いでカタリナに貸してくれた。


「ありがとうございます……」


 クルトのジャケットを着ると、ジャケットに残っていた温かさを感じてほっとした。


「……寒い思いをさせてすまない。こんな話をする為に君を呼んだ訳じゃないのに……」


 クルトはなかなか本題を話さず、時間だけが流れた。クルトも寒くなってきたのか、「くしゅん」と小さくくしゃみをしたので、カタリナはクルトのすぐ隣に座り直した。

 クルトは顔を赤くしてカタリナを見たが、カタリナはクルトの顔を直視できなかった。


「くっついていれば……少しは温かいですよ……」


「カタリナ…… 君は本当に……」


 クルトは拳を強く握った。


 クルトが何かを言おうとしていることは分かったが、今にも泣きそうな顔で俯くクルトの事がカタリナは気になって、思わずクルトの手を取った。


「仲直りしましょう? 殿下」


(あなたの困った顔はもう見なくていい)


 クルトの困った顔を見たかった筈のカタリナは、いつの間にかクルトの笑った顔が見たくなっていた。また、不器用にはにかんだクルトの顔が見たいのだ。


「すまなかった、カタリナ……君の事がただ心配だったんだ。明日は私から離れないと約束してほしい」


「はい。約束します。私は殿下から離れません」


 クルトは強くカタリナの手を握り返した。



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