第9話 ドラゴン討伐。炎の剣
「これ借りるぞ!!絶対に返すからな!!」
そして涙を拭い、テオの手に握られていた剣を手に取る。重い。腕が痛い。息が苦しい。
でも。
「っっ!!!」
これまで幾度となくドラゴンの攻撃を交わし続けていた女が、炎の後に迫った巨大な尾を避けきれず、薙ぎ払われるのが視界に入った。
数メートル先で、建物の瓦礫の中に凄まじい音を立てて突っ込んでいた。
俺は、衝動的にそちらに駆ける。
「おい!!」
女は口の端から血を流し、瓦礫の上で苦しげに唸っていた。
俺は衝動的にその女を抱き抱える。
「お前、」
フードが取れて、顔が見える。
燃えるような赤い髪だ。そして、同じく真っ赤な瞳。
「……来る」
女はそう言うや否や、脇を押さえてよろよろと立ち上がった。
ズン、という地鳴りと共に、巨大なドラゴンが地上に降り立った。
こちらをギラギラとした目で睨みつけている。
口の端から炎が溢れ出ている。
恐怖に足がすくむ。
あの炎が放たれたら最後、俺たちは死ぬ。
ここまでか。
でも。
「……」
目の前でふらついた女の体を咄嗟に抱える。
その瞬間、女が驚愕したようにこちらを見た。
そして、俺の素早く腕を振り払った直後、俺の片手を握る。
繋がれた手が、燃えるように熱い。
俺は目を見開く。
ドラゴンが大きな口を開く。
炎が、放たれる。
「ーー紅蓮滅翔!!!」
女が詠唱するや否や、凄まじい火力の炎の塊が、ドラゴンの炎を引き裂くように逆流し、ドラゴンの体を炎が焼き尽くした。
「グアァアアアアアア!!!!!」
ドラゴンの絶叫がビリビリと空間を震わせる。
「走れ!!!」
女は俺の手を握ったまま、ドラゴンに突っ込んでいく。
俺は片手に剣を握ったまま、言われるがままに走った。
なぜか体が軽い。視界がよく見える。
全身炎に包まれた巨体なドラゴンがのたうちまわり、巨大な尾が暴れ回る中を素早く避けて、スライディングしながらドラゴンの間合いに入り込んだ。
「心臓だ!!貫け!!!」
そして俺はその言葉に、迷うことなく剣を振り上げた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「焔穿!!!!!」
そして、炎を纏った剣を、ドラゴンの心臓に突き刺す!!
「ギャアアアアアアアア!!!!!!!!」
ドラゴンの断末魔が国中に響き渡った。
ドラゴンはのたうちまわり、やがてぴたりとその動きを止めると、地面を揺らす勢いでその場に巨体を沈めた。
沈黙が場を支配する。
街中の炎が、小さくなって消える。
……やった。
とどめをさせたのか。
「……テオ!!っっ!!」
テオのことを思い出した瞬間、凄まじい吐き気がして、その場に蹲る。
目が回る。
呼吸が定まらない。
隣の女も、膝をついて荒い呼吸を繰り返していた。
「お願いだ、テオを、助けてくれ。あのままじゃ、死ぬーー」
ふっと、言い終わる前に意識がブラックアウトした。
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女は、隣で地面に倒れ込んだ男の体を意識朦朧と見下ろした。
テオ?
あぁ、さっきのこいつの仲間か。
なぜ私がそいつを助けると思うんだ?
女は自分の回復で精一杯だったが、やがて小さく舌打ちをした。
そして生理的に震える体に喝を入れ、先程男たちが吹っ飛ばされていた場所に移動する。
瓦礫の下で、青髪の男が気絶していた。
確かに死ぬだろうな、このままでは。
そう冷静に考えるが、自分の力があればまぁ少しばかり延命することぐらいは出来る。
ため息をついて、女は瓦礫の山を魔法で吹き飛ばした。
もう、特定の個人は助けないと決めたのに。
だが。
男の傷口に回復魔法を当てを手当てをしながら、ドラゴンの前で倒れ込む男をちらりと見る。
あの男には使い道がある。
貸し一つぐらい、作っておこう。
そう自分を納得させ、女は、くらくらとする視界をなんとか定め、目の前の男の回復に集中した。
やがてバタバタと集まってきたこの国の救護班やら騎士団やらに男たちを引き渡すまで、女は二人を見張り続けたのであった。
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