炎の巫女とゆく終焉の世界
@dorusuko
第1話 異世界転移は酒場からスタート!
「……異世界転生って、もっと派手な感じのやつだと思ってたんだけどな」
俺は、たくさんの酒のジョッキを両手に持ちながら、ぽつりと呟く。
「ん?にーちゃん、今なんか言ったか?」
「いえ……なんでもないです!お酒お待たせしました!」
顔を真っ赤にしたド派手髪の酔っ払い客の一人にそう聞き返されて、俺は慌てて両手の酒をテーブルに置く。
「お!きたきた、お前ら!酒が来たぞー!!」
その言葉に、三日月の腕章がついたこの国の華やかな騎士団の制服を着崩した男たちがワッと湧く。
ーーそう、ここはとある酒場。
ここで働いているのが、この俺。安遠ハルキ。
日本では、平凡な大学生として生きていた。
大学と地味なアルバイト先の往復で、彼女もおらず、なんとなくハマったソシャゲに課金するぐらいしか趣味のなかった俺。
それが、今やーー
「ハルキ!ほら、お前も飲めよ!!」
騎士団の輪の中の一人……この店の馴染みの若い男で、最近少しだけ絡まれて話すようになったこの青髪の男にジョッキを差し出され、俺は笑いながら手を振った。
「いや、俺今勤務中なんで」
「お前なぁ、真面目かよ。他の店員はみんな喜んで飲んでるぞ?なぁ店長!」
そうして、カウンターに立って他の客と話す店長に叫ぶ。
「まぁそうだな!飲めるんだったら飲め。その一杯もこの店の売り上げだ!それに、この国で一番有名な騎士団長の息子さんにそう言われちゃ、こっちも何も言えねぇからな!」
その言葉に、ドッとその場が湧く。
騎士団長の息子と呼ばれた若い男ーーテオが、店長の言葉に曖昧に笑って、俺に再度ジョッキを押し付ける。
「……じゃあ一杯」
俺はそう言って、酒を一気飲みした。
その動作に、場がやんややんやと盛り上がる。
「お前、やるなぁ!」
そう言って、テオが俺の腹を軽くこずく。
だってしょうがないじゃないか。
これがアルハラだろうが、パワハラだろうが、この世界にそんな言葉は存在しない。
ましてや、最低賃金や労働基準法なども存在しないのだから、言われた通りに全てを受け入れるしかない。
こうでもしないと、俺は多分、すぐにでもこの酒場を首になる。
「最初は素性の知れねぇ奴だと思ってたけど、良い奴だったな!」
店長のその言葉に、俺はぎくりとする。
そう、俺は、この世界の生まれじゃない。
つい数週間ほど前に、この世界に来たばかりのーー
「そういえばハルキ、お前、どこ出身なんだっけ?」
酔っ払いのテオのその言葉に、俺は曖昧に微笑む。
日本だ!などと口が裂けても言える訳がない。
この国の自衛的存在であるこの騎士団の奴らに馬鹿正直にそんな話をしたりなんかしたら、絶対に頭のおかしい奴だと思われて、力づくで勾留されるに決まってる。
最悪、奴らの側に立てかけられている剣で、切り捨てられる可能性すらある。
そんな可能性は、万に一つも潰さなくてはならない。
そのためには、俺はなるべく、自分のことを話すべきではないのだ。
「そんなことよりほら、メシでも食えよ!」
……だってここは、絶対に地球じゃないーー剣と魔法の存在する、ファンタジーな異世界なのだから。
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