多喜、富山、渡辺――学食②

 多喜の肩をふいに掴んで、富山は言った。


「ツテはこれから作る。切り札は確保してあるから。りょーじゅさぁ、このあと合唱部いく?」

「うん、行くけど……」


「白木っていう男の人の卒業生いたら、連絡してくれない?」

「いいけど……え、ツテってあのひと?」


「うん、彼、都川大の英文科でしょ? 元PSCらしいから」

「そうなんだ、知らなかった」


「富山は進路まで考えてんのか……俺は、戦争終わったらどうしようって感じだよ。この3ヶ月、オーダー科の覚えることだけで必死だったから」


 そう腕組みをする渡辺に、多喜が問う。


「中学でなにかやってなかったの?」

「生徒会長くらいかなあ、クラブ活動も剣道だったけど、それは半分遊びだったし、ここ剣道部ないし」

「え、やだ。校内の不良のトップとかじゃなくて?」

 富山の冷やかしに、吹き出しそうになる多喜、そして豪快に笑う渡辺。


 渡辺は、体育の成績だけは抜きん出て良い。作法の良し悪しもボーイスカウトや軍隊式の行動様式を学んだというより、上下関係の意識の強い反社会組織の階級社会のそれに近い。警棒術も小学校時代剣道をしていたとのことで、間合い読みの足さばきがいいと城戸に褒められるほどだった。


「ガハハハ、まあ、うん、そういう子らとも仲はよかったよ。生徒会選挙のときもきちんと登校して投票してくれたし。中学時代の一番の手柄は、正直生徒会長というより校内でオーバードーズやってる生徒を俺の在任期間中だけゼロにできたってことくらいだし。その分授業の成績微妙だったんだけどさ。それでオーダー科枠だし。……まあ、そんな武勇伝あっても、薔舎じゃ手札にならないだろ。どっちかっていうと元オーダー科の生徒会役員なんて絶対、戦時下の亡霊みたいな見方されそうだし。剣道部つくるのも元オーダー科が創設ってのはスジが悪すぎる」


「多分ぼくらそれ一生言われると思うよ。……受験から含めたら半年くらいだけど、たった3ヶ月なんだけどねえ」

「まあしょうがないよ、それより私らは私らで、オーダー科があるうちにできることしないと」


「ん?」

「上田くんの自殺のいじめ疑惑の件、2尉殿が退任する前に取り消してもらわないと全校生徒のスコアに残ることになる」

「ああ、それか!」


 それをきいて、多喜はピーマンの肉詰めの最後の残り半切れをつまみ上げた箸を下ろした。


「それなら大丈夫だと思うよ」

 多喜は最後の一口を惜しむように塩を振り足しながら、こともなげに言った。これに2人が顔を見合わせる。


「え、なんか知ってるの?」

「うん、一応ぼく第一発見者だし、警察の担当の人ともちょいちょい連絡とってたから」

「それで? どんな感じだって?」


「統合秩序推進局経由で担当の人が聞いたかぎりでは、自殺は単独だったって。いじめも、本人のボディカムの記録を検証した限りでは形跡なし。警察のほうでも上田の家から本人の手書きの日記が見つかって、そこに書いてあった内容を見る限り、オーダー科の任務のストレスが原因だろうって……マイナンバースコアの備考欄の件に関して相談したら、当局と連携が取れ次第、全校生徒へのいじめ疑惑の内容は削除するって」


 そう言って、最後の一切れをぱくっと口に放り込む。

 ほっと息をつく富山。だが渡辺は険しい顔をして箸を置き、水を一口飲んだ。


「富山、落ち着ける話じゃねえと思うよ」

「ほえ?」

「いや、そうでしょ。なんつうか、上田達をはぐれものにしないでさ、なんとか俺等のグループに巻き込んで一緒に飯食ってこう、いろいろ話せてたらさ、ホトケさんにはならなかったって話だろ」


 その言葉には、多喜もこくこくと頷く。


「ぼくもナベの言う通りだと思う。実際、あの日から気がつくとずっと考えちゃってるし。警察の担当の人からも学校のカウンセラーからも、あんまり考えすぎずに、適度に気分転換しなさいとは言われてるんだけどね」


「抱え込んじまうよなぁ」

「わかる?」


「うん、俺もオーバードーズ撲滅頑張ったのも、1年の時クラスの子が授業サボって屋上で薬食って急性中毒で運ばれたの見たからだし……まあ、その子はなんとか普通の高校進学したし、俺は負い目を力に変えられたけど、……亮珠の場合は、ポジティブに無理矢理動く前に自分のケアから始めないとだろ。大人の言う通りでナンだけどさ」


 その言葉を聞きながら、多喜は味噌汁を飲み干した。これで完食である。


「ありがと。ま、その自分へのケアが多分合唱部なんだわ、ぼくの場合……ごちそうさまでした」


 茶碗と味噌汁の椀を重ね、箸を箸箱に戻してカバンに収める。


「今日も早食いだねえ、太るよ」

「ハッ、富山が遅いだけ。じゃあ、合唱部の練習ちょっと参加してくるから」


「はい、いってらっしゃい」


「2学期になっても、また飯食おうな」

「もちろん」

 そう言い合って渡辺とタッチを交わし、食器の載ったトレーを片手に立ち上がった。

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