第18話  竜頭蛇足

「おいおい終わった話を蒸し返すなよ・・・興醒めも甚だしい」

俺と佐々木はお礼も兼ねて摩耶山の喫茶店のマスターに詣でた。


「山には昔から賤民、失礼、自由の民「山の民」がいたんだ。

それに纏わる差別意識、異端視から色々な山の怪が産まれた」

「サンカってやつか」

「そうじゃなくても日本人の大半は農民さ。狩猟を生業とする

猟師や炭焼きは身分制度の例外だった。

道々の民と同じで年貢も納めない。不平不満もでるだろうさ」

「それで里の娘が山の男に惚れたりすると」

「それじゃ猿神に攫われましたとでもしなきゃ、無理やり

納得できないだろ」

「娘さんよく聞けよ山男にゃ惚れるなよ」


「あとUMAも牛鬼にされるだろうね、熊以外の未知の生物は

みんな妖怪さ。施政者は壁や堀や柵で囲って消極的な対処方を

とるだろうね。なんせ山の民はいない事になってる・・・

退治を依頼なんかできない」


「あとは濡れ女は?」

「ここに鳥山石燕の「濡れ女」の図がある。

赤子を抱いているだろ。

古来から蛇は安産のお守りになってる。

獲物を丸呑みにした姿が受胎して腹が膨れた妊婦に見立てられた

そうだろ?

中国伝来かもしれないが獣と婚礼の話は異類婚姻譚(いるいこんいんたん)として

後が絶たない。

特に蛇が絡み合って交尾している姿は昔の人にとって淫靡な想像を書き立てたのは

間違いないねぇ。

後これはいいたくないんだが「磯女」磯は子を流す。そんな暗喩なんだよ」


そしてダメ押し、島根の話でね、引用しよう。

石見地方でいう「ヌレオンナ」は、「牛鬼」に使われる水妖で、海辺に現れ、抱いている赤子を人に渡して海に入ると、牛鬼が現れる。頼まれた人間は、赤子を投げ捨てて逃げようとするが、赤子が重い石になって離れない。その為牛鬼に喰い殺されてしまうと伝えられる。従って、赤子を抱かされたときは手袋をはめて抱き、逃げるときは手袋ごと赤子を投げ出すものだと云う。また濡女は牛鬼の化身との説もあり、島根の大田市の伝承では、濡女に赤子を預けられた男が牛鬼に襲われ、どうにか逃げ切ったところ牛鬼が言った「残念だ、残念だ」との声が濡女と同じ声であったという。」


「わかった」

「それから失踪した人間は山に入って退化する。服も着ていない。裸さ。

そいつらどうしが交わったら、その子供はもう人間とはいえない。

「邪視」もその戒めの話さ」


「結論から言おう、山を覗くとろくなことがない」

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