第10話 摩耶山掬星台の喫茶店
チンパンジーか?
日本の山にチンパンジーがいるのか?
そいつと目が合ってしまった。
ヤツがこっちを認識したのが直観でわかった。
怖気がした。
俺はあわてて双眼鏡を胸に落とした。
なにか胸騒ぎがする。
帰りのタクシーを拾って待たせて
公園に戻ったら…
妻が失踪していた…
それから俺は半狂乱だった。
もちろん警察に捜索願いは出したさ。
そのまえに実家の近くの森崎の友達にも全員連絡した。
千鶴は来ていないわ…
そればかりだ。
警察はベンチの指紋まで取ってくれて
翌日の朝から聞き込みをしてくれるとは約束してくれた。
その足で森崎家に行ったが針の筵だったよ。
お父さんには殴られた。
学生結婚なんか許すんじゃなかったと…
お母さんは案外冷静で、まだ死んだと決まった訳じゃないとは
言ってくれた。
寝れる状態じゃなかったが警察の聞き込みに付き合いたかった。
張り紙を作るなんて事はその時には浮かばなかった。
とにかく体を動かしたかった。
携帯が鳴る。
「俺だ、佐々木だ」
「ああ、久しぶりだな、取り込み中でな、後にしてくれるか」
「朱美先輩がそっちに行ってる。集合先を教えてくれ・・・」
「えっ…」
「バカか!あんだけ千鶴さんの友達にかけまくったら俺達の耳にも届くだろ」
「すっ、すまん」
「とりあえず詳しい話を聞かせてくれ」
朱美先輩の黒いバンが停まった。
「朱美先輩すいません」
「あんたのためでもあるけど森崎千鶴は私の友達よ、水臭いこというのなし」
俺は泣き出した。
気を張っているのが一気に弛緩したのもある。
とりあえず何とかなるという一縷の望みが、闇の中の光明が見えた気がした。
「車中で眠っときなさい。神戸まで行くわよ」
摩耶山ロープウェイ掬星台の喫茶店に着いた。
挨拶もそこそこに席に座る。
佐々木望、橘薫先輩はいいが緑と黄色のバンダナを巻いた小柄な婆さんと気弱そうな
眼鏡の女、いかつい恰好のSPのような大男がいた。
マスターがコーヒーをいれてくれた。
「ごゆっくり」
「さて、佐々木から話を聞いた限りではこれは組合関係の仕業とみたね」
婆さんはこの座の仕切りになるんだなぁとぼんやりと思う。言ってることの半分も
理解できない。
「察するに山の怪、猿、ましら、猩々、あるいは裸で徘徊する山人の線もある」
喫茶店のマスターもリクライニングチェアーに座っている。話に入るのか?
「すまんね、悪いが立ち入らせてもらう。おまえさん
まだ信用されていないんだよ。
本丸に連れて行くのはまだまだというところかな」
「挨拶はいいから能書きを続けな」
婆さんはマスターをたしなめた。
マスターはやれやれと芝居かがったしぐさで両手をあげた。
「手厳しい。昔から山の獣が里や村の女を攫う話はある。いわゆる「猿神」だ。
主に白い大きな狒々が正体だ。村に悪さをしないかわりに人身御供を出せとね。」
「という訳で門外不出の宝玉の出番さね、遠野小雪、了承」
「鈴木八咫、了承」
「文子、了承」
テーブルの中央に鏡と、それを取り巻くようにトランプが忽然と現われた!
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