第17話 オレンジ色の味
何時しか、空は茜色に染まっていた。異次元に閉じ込められた学校にいるときはわからなかったけど、ちょっと見てないだけで夕焼けってこんなにも綺麗に見えるんだなって。
一方で、シャルド伯爵の屋敷内では食事の準備が執り行われていた。といっても、食事カードを使うだけなんだけど。ダイニングテーブルには既にみんなが集まり、料理を囲んでいた。
ちなみに僕が出した料理は、【珍味】カードというだけあって、見た目的にはぬめっとした質感でオレンジ色のイカの塩辛そのもので微妙なものだ。匂いを嗅いでみると若干だけど発酵臭もした。ヨーグルトよりは生臭さがしない感じだ。
例によって、味や効能は食べてからのお楽しみとのこと。いや、腐ってもSSRなんだから美味しいに決まってるんだけど、みんな驚きと恐れが入り混じってるような顔をしていた。
「まず僕が食べてみるね」
もはや毒味といってもいい、そんな微妙な空気の中で僕はイカの塩辛にしか見えない食べ物を箸で一つつまんで口にした。
「「「「「っ……」」」」」
その瞬間、みんなの息を呑むような声が聞こえてきたけど、それがまったく気にならないくらい、僕の口の中では一種の革命が起きていた。
イカの塩辛を知ってる人なら、誰もが塩辛くて噛み応えのある、そんなご飯泥棒のような味を想像するはず。そうでなくても、どこか生臭いような味を連想するはずだ。
でもこれはまったく違っていた。完全なドライフルーツだ。それもただの乾燥させて加工したような代物じゃない。噛めば噛むほどに瑞々しい果物を丸かじりしているかのような、そんな不思議かつ贅沢極まる味わいだったのだ。
数年前、僕が中学生のときに亡くなったお婆ちゃんが実家で作っていた干し柿というものがあるけど、糖度や新鮮さでは完璧にこっちが上回っている。なんて贅沢な味なんだ。気付けば僕は食べるのを止められなくなっていた。なんていうか、中毒性のある甘さなんだ。
「あ、主よ、これ、旨すぎるぞっ……!?」
ゴンが信じられないといった顔で咀嚼している。
「……癖になりそう……」
リンもまた、想像とは全然違ったのか呆然としながら食べている。
「あ、あ、甘くて蕩けちゃいますうー」
エルに至っては、文字通り体も地面に広がり溶けかかっている。さすがスライム。
確かこの前出てきた食べ物はレアなチーズケーキだった。珍味というだけあって一つに限定されないんだな。あれってかなり満腹感があってしばらくお腹が空かなかったほどだ。どんな効果なのか説明が変更されてるだろうから見てみるか。
『――今回の珍味は、幻の果実ポポーの変種と噂される“フォレストオアシス”の実。それを熟成・発酵させ、樹液と融合し、百日間干すことで生まれる
へえ、なんか凄いや。テレポ使いまくって気力が疲弊したときなんかによさそう……っと、そうだ。リンが出した料理も普通に美味しそうだ。大きくも小さくもない容器の中に海苔で巻かれたおにぎりや唐揚げ、タコさんウィンナーや卵焼きがぎっしり詰まっていて、典型的なお弁当タイプなんだ。
「リンのも美味しいね」
「うむ、これも旨いぞ! ……う、ゴホッゴホッ!」
「ゴンさん、そんなに急いで食べちゃダメですよー」
「ふふっ。ゴンちゃんは食いしん坊ね」
「僕のは【珍味】っていう食事カードなんだけど、リンのは?」
「私のは、【お弁当】カード。レアだって」
「へえー」
いかにもリンに合いそうな温かい感じの食事だ。というか、ずっとご馳走なだけよりこういうのもあったほうが絶対にいいと感じた。
大食いのゴンがいるのもあって、僕たちは全部あっという間に平らげてしまった。
「「「「ご馳走様」」」」
なんていうか、やっぱり一人で食べるよりは誰かとこうして談笑しながら食べるほうがずっと楽しい。もちろん、たまには一人で食べるのも悪くないんだけどね。孤独って悪いことばかりじゃなくて、一人の時間って思っているよりも重要だと思うから。
――ゴトッ。
「「「「っ……!?」」」」
い、今、どこかで物音がしたような……? 照明目当てで飛んできた虫にしてはかなり大きかった。僕たちは神妙な顔を見合わせる。
「もしかして、僕たち以外にここに誰かいるのかな?」
「あ、主よ、まさかお化け? 幽霊の仕業なのか……!? 我は戦うのは好きだが、そ、そういうのは大の苦手なのだっ!」
「ゴンさんったら、勇ましいドラゴンなのに怖がりですねー」
「……誰か住んでいるのかも。だって、ここってどこを見ても、とても綺麗に整頓されているから」
「だ、だよね……」
リンの見立ては間違っていないように思えた。これだけ屋敷の内外が整っているわけで、逆に管理をしてる人がいないほうが不自然なんだ。じゃあもしかしたら、僕たちは他人の家を勝手に使っている状態……?
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