第2話 仮面の下

 事件からちょうど一週間後の朝、N中学校の正門前に、再び騒然とした空気が流れた。


 校内清掃のため早朝に来ていた用務員が、校舎から少し離れた中庭の隅――生い茂る植え込みの中で、倒れている人影を発見したのだ。


 倒れていたのは、三上直樹と同じ学年の教師であり、生活指導担当でもある 赤沢貴之あかざわたかゆき 教諭だった。


 彼の顔は引き裂かれたように深い傷を負い、制服も裂け、至るところに爪痕のようなものが残っていた。


「熊か……? まさか、こんな町中に……?」


 初動の警察はそう判断した。だが、警察内部でも“何かがおかしい”という声がすぐに上がった。


 傷の大きさ、方向、深さ――いずれも熊の攻撃としては不自然だった。


 そして極めつけは、彼の左手に握られていたもう一枚の紙切れ。


> 「裁かれるべき者が、まだいる。」




---


「これ……まさか、直樹の時と同じ?」

 再び校内で聞き込みを始めていた理沙は、赤沢教諭の死亡を知った瞬間、体の震えが止まらなかった。


 赤沢教諭は、学年でも特に厳格で知られていたが、一部の生徒の間では“裏の顔”を噂されていた人物でもあった。


 理沙の脳裏に、直樹が最後に言った言葉が蘇る。


「……“あいつ”、許せないことしてるんだよ。ちゃんと話したいって思ってる……でも、まだ証拠が……」


 “あいつ”とは誰なのか?


 赤沢はその“あいつ”なのか? それとも――?



---


 警察は「野生動物による事故」の可能性を強調しつつ、再び校内の聞き込みを強化する。


 しかし理沙は、すでに学校の内部調査が“何かを隠そうとしている”ことに気づいていた。


「誰かが、この中学校の“真実”を暴こうとしてる。そして、それを止めたい誰かがいる……」


 理沙は決意する。


 亡き友・三上直樹の“言えなかった秘密”を、そして今また失われた命の意味を、自分の手で解き明かすと。


 その夜、理沙の机の引き出しに、差出人不明の封筒が届く。


 中には、一枚の写真。


 そこには――夜の校舎裏、資材倉庫に入っていく 校長・野中正一 の姿が映っていた。



---


 次章へ続く。

(第三章予告:封じられた過去、そして“正義の刃”の意味)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る