第28話

第28話 Target25人目:セキュリティの裏切り者


 表向きは「ネット被害から守る会社」だった。大手のセキュリティ企業〈ガーディアン・リンク〉。その社員のひとり――佐藤 誠司(さとう せいじ)。

 テレビに出ては「誹謗中傷から子どもを守ります」と、清廉潔白を気取る。炎上事件があるたびにコメントを出し、被害者遺族と握手し、英雄のように扱われてきた。


 だがアカリは知っている。

 自分が炎上したとき、守られるどころか、逆に個人情報が“外”に流れた。その発端はこの男だった。


 ――金になるから。

 それが理由だった。佐藤はセキュリティシステムの裏側から、被害者の住所や通学先を抜き取り、闇サイトで売りさばいていた。彼の言う「守る」は、守ってやるフリにすぎなかった。炎上が増えるほど儲かる、だから彼は炎上を望んでいたのだ。


 アカリは動き出す。

 彼のノートPCへ、わざとらしく送られた「セキュリティ検証依頼メール」。開いた瞬間、逆侵入が始まる。

 深夜のオフィスで佐藤は気づかない。ファイルの中に眠る証拠――顧客名簿、被害者の個人データ、その横に並んだ暗号化されていない取引履歴。


 数分後、アカリの手元には全ての証拠が揃っていた。


 ――あとは暴くのみ。


 翌朝、匿名の投稿がSNSを駆け巡る。

「セキュリティ会社社員が個人情報を闇売買!」「被害者を守るどころか食い物に」

 添付されたスクリーンショット、取引ログ、そして被害者の実名が並ぶ内部資料。


 炎上は一瞬だった。

 テレビで正義を語っていた男の顔が、今度は悪の象徴として切り抜かれる。記者に追われ、顧客は一斉解約し、会社は会見に追い込まれる。

 佐藤は叫ぶ。「違う!俺じゃない!」

 だが、画面には彼の社員IDと電子署名。言い逃れは不可能だった。


 人々は怒り、嘲笑し、叩く。

 彼自身がかつて守らなかった人々と同じように、今度は彼が「守られることなく」炎上の中で焼かれていった。


 画面を見つめながら、アカリはただ静かに呟いた。

「これが、あなたの“セキュリティ”の末路よ」



---


■Target数:25人

■NextTarget:選定中

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る