第15話

第15話 群衆の処刑


──平凡ほど、醜いものはない。

それを、あの日、私は思い知った。


彼らは普通のサラリーマンで、普通の高校生で、普通のOLで、普通の主婦で、普通のタクシードライバーで、普通のコンビニバイトだった。

SNSに残る彼らの足跡は、どれも似たような言葉で埋め尽くされている。

「炎上してて笑ったw」

「こいつやばくね?」

「まぁ燃えて当然だろ」

──平凡な日常の隙間に、誰かを焼く火種を投げ込み、また日常に戻る。

自分の手が人を殺すことなど、微塵も考えずに。


私は一人ずつ狙うのではなく、群れごと焼き払うことにした。

数をまとめて潰すなら、ネットワークそのものを腐らせる方が早い。

彼らのアカウント、端末、生活──すべてを同時に。


まず、SNS上のグループチャットを侵食する。

何気ない会話に見せかけた「内部告発データ」の偽ファイルを配布。

クリックした瞬間、端末は私の支配下に置かれる。

位置情報、連絡先、職場メール、私生活の写真。

それらを組み合わせ、彼ら自身の手で彼らの生活を壊す筋書きを作る。


平凡なサラリーマンには、会社の内部監査部に「不正会計の証拠」を匿名で送らせた。

平凡な高校生には、教師や保護者に向けて、自分の友人を侮辱する暴言を自動投稿させた。

平凡なOLには、恋人の浮気を捏造した画像を送信させ、交際を崩壊させた。

平凡な主婦には、ママ友グループに「あなたたちの旦那の給料、低すぎて笑う」と書き込ませた。

平凡なタクシードライバーには、客の個人情報を漏らした証拠をネットに流させた。

平凡なコンビニバイトには、監視カメラ映像を切り取って「万引き」しているように編集させた。


全員が「自分でやったこと」として、社会から切り離されていく。

家族は離れ、仕事は失い、友人は去る。

そして、炎上の中で彼らが口を揃えて叫ぶ。

「俺はやってない!」

──それは、私にとって最も甘い悲鳴だ。

そして、悪意のない悪意の為の、優しさ。殺さないだけ、感謝して欲しい。


夜。

モニターには、六つのアカウントがほぼ同時に沈黙していく様子が映っていた。

私は画面を閉じる。

自分のストレスを自分が傷付かない様に炎上悪に乗って晴らす。それで傷付く者を気づかない。

「これで理解しましたか?」

軽い気持ちで潰される気分は????


> 「TARGET_14 → 終了済」


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表情は変わらない。

次に進むだけだ。

黙って、静かに──“処刑”を続ける。


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