第14話
第14話 優等生の転落
──彼の名前は、朝倉 聖司。
成績は学年トップ、スポーツもそこそこ、顔は芸能事務所からスカウトされてもおかしくない端正さ。しかも実家は地元でも有名な不動産会社の御曹司。
それだけで、クラスの女子は彼を「王子様」と呼び、彼の一言一挙手に黄色い声を上げた。
だが、その内面は──徹底的に自分本位だった。
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「水瀬アカリ? YouTubeで人気らしいな。…ふん、まあ俺が本気出せば、すぐに隣に並べるだろ」
そう吐き捨てるように言い、鏡の前で髪を整える。
彼にとって、アカリは“手に入れることで自分の価値をさらに上げる”ためのアクセサリーに過ぎなかった。
そして、告白の日──
> 「俺と付き合ってやるよ。きっと似合うと思うぜ」
その言葉を、アカリは表情一つ変えずに否定した。
> 「……お断りします」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
脳内で勝手に「Yes」しか想定していなかった聖司は、現実を受け入れられなかった。
> 「……は? 俺が告白してやったのに?」
それから、彼の感情は急速に腐っていった。
アカリが人気を増していくたび、嫉妬と屈辱が膨らむ。
夜、自室の机に座り、パソコンを開く。
SNS、匿名掲示板、YouTubeのコメント欄──あらゆる場所に、聖司は書き込んだ。
> 「あいつ、裏で枕営業してる」
「学校じゃ男遊びひどいらしいぞ」
「教室でタバコ吸ってた」
「金持ちのじじいに抱かれてる」
「男を取っかえ引っかえ」
「学業サボってるくせに、偉そうに配信とか」
「性格最悪。俺も被害者だわ」
嘘と恨みつらみのオンパレード。
しかも彼は巧妙だった。自分の熱烈な女性ファンに個別メッセージを送り、アカリへの中傷を拡散させた。
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女たちは「聖司様が言うなら」と、疑いもせず動いた。
コメント欄は一時期、アカリへの罵詈雑言で埋まった。
──だが、ある日から異変が起きる。
聖司の取り巻きのスマホに、次々とメッセージが届いた。
送り主不明の動画や画像──
聖司が鼻をほじりながらカップ麺をすすっている姿。
風呂場で歌いながら腹をボリボリかく様子。
夜中に母親に甘えた声で「靴下洗ってー」と叫ぶ音声。
果ては、泥酔してゲロを吐く瞬間のアップまで。
完璧に見えた「王子様像」が、無惨に崩れていく。
女たちは次々と距離を取り、「キモい」「無理」「王子様(笑)」と陰で囁き始めた。
孤立した聖司は、怒りをぶつける場所を探し始めた。
教室の机を蹴飛ばし、ロッカーを殴り、通りすがりの後輩を恫喝する。
そして──ある日、不運にも近くにいた地元の不良グループの一人に軽く手を出してしまった。
それが、地獄の始まりだった。
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夜、人気のない駐車場。
十数人のバイクのヘッドライトが彼を囲む。
耳をつんざくエンジン音。
誰かが笑いながら鉄パイプを地面に叩きつける。
> 「偉そうなんだよ、ボンボン野郎」
次の瞬間、聖司の右足にバイクが突っ込んだ。
鈍い音とともに、骨が折れる感覚が全身に走る。
叫ぶ間もなく、別の方向から左足をバイクが轢き、ねじれ、潰す。
四方八方から何度も、何度も──
骨が粉砕され、肉が裂ける音が夜に響く。
両腕も、バイクのタイヤで踏みつけられ、動かなくなった。
視界が赤く滲む中、聖司はただ、自分の惨めさだけを噛み締めた。
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数週間後。
聖司は病院のベッドの上。
四肢は動かず、モニターの電子音だけが単調に響く。
彼の表情からは、かつての自信も誇りも消えていた。
その病室の監視カメラの映像を──
水瀬アカリは、自宅のモニター越しに眺めていた。
> 「……取巻きも潰すべきだったか」
小さく呟き、画面を閉じる。
瞳は、何の感情も映していなかった。
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