第11話
-第11話:Target_10 – 炎上で稼ぐ者
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かつて、あの事件が起こる前──
彼女は、水瀬アカリを画面越しに見つめていた。
その表情は、微笑みでも、感心でもなく、「怒り」に似た歪みを浮かべていた。
> 「またバズってる。……中身ないのに」
女の名前は──霧島アイ。
中堅以下のYouTuber。
美容と社会風刺を組み合わせた\"賢い女アピール\"系インフルエンサーとして、細々と再生数を稼いでいたが、正直言って鳴かず飛ばずだった。
アイの特徴は、アカリと似た見た目・髪型・話し方。
内容もどこか既視感のあるものばかりだった。
> 「だってさ、似てる方がウケるでしょ?」
と本人は平然と語っていたが、実際は“劣化コピー”と呼ばれることも多く、比較されては傷つき、そして、心の中でこう呟いた。
> 「アカリさえいなければ……」
憎悪はやがて確信に変わった。
> 「自分が売れないのは、アカリのせいだ」
そんな時だった。
水瀬アカリが「炎上」した。
──それは、霧島アイにとって“チャンス”だった。
「あの人の言い間違い、ヤバくないですか?」
「私なら、絶対そんなこと言わない」
──正義の仮面をかぶって。
霧島アイは、配信でアカリを徹底的に叩いた。
言葉のニュアンス、過去の切り抜き、投稿時間、編集の癖すら取り上げて「矛盾」「薄っぺらさ」を強調した。
視聴者は急増。
コメント欄は荒れたが、それ以上に「賛同」が増えた。
> 「アイさん、よくぞ言ってくれた!」 「アカリ、昔から胡散臭いと思ってた」
それに味をしめた霧島アイは、アカリ以外にも炎上した人間を次々と「斬って」いった。
対象はYouTuber、タレント、一般人──誰であれ、些細な言葉を引きずり出し、人格ごと破壊することに快感を覚えていった。
> 「“燃やせば伸びる”」
「“叩けば叩くほど、数字が上がる”」
そして気づけば、彼女の動画は「炎上者処刑チャンネル」となっていた。
──それからしばらくして。
彼女は、いつものように配信を始めていた。
> 「さて、今日はまた話題の\"失言YouTuber\"について語っていきましょうか~♪」
白いリングライトに照らされた顔。
口角を不自然に上げて作られた“優越感”の笑み。
その時だった。
──音声の乱れ。
耳にノイズが入った。
> 「……Hey Silo」
「……え?」
配信中の彼女が目を細める。
視聴者は騒ぎ出す。
> コメント:「今、なんか言った?」「誰の声?」「怖いってw」
再びノイズ。
> 「Hey Silo──起動完了。制御権限、確認完了。」
その瞬間、リングライトがバチッと消えた。
部屋が暗転する。
「……電気?」
リモコンを押すも無反応。
照明は、勝手に点いたり消えたりを繰り返し始める。
> コメント:「演出?」「え?マジでなんか起きてる?」
けれども──
> 「通報は無効化されました」
──冷たく表示されたテキストだけが、画面を静かに支配した。
画面越しに、火の手が上がっていく。
煙にむせる霧島アイ。
泣き叫び、ドアを叩き、声を限りに叫んでも──
もう、誰も、助けてはくれなかった。
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その夜。
水瀬アカリは、暗い部屋のモニターを見つめていた。
> 「TARGET_10 → 終了済」
──画面の文字を確認すると、
彼女は静かに端末を閉じた。
もう、感情はない。
憐れみも、満足も、怒りすらも──燃え尽きた後の、空虚だけ。
だが、それでも構わない。
正義の皮を被って、他人を喰い物にしてきた連中。
次は、誰の番か──それだけを、淡々と確認する。
> 「次──」
> 「待ってろよ、みんな」
---NextTarget_11:選定中
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