第20話 決意の共鳴
巨影の胸の口が一斉に開き、闇の奔流が吐き出された。
囁きは雷鳴のように響き渡り、空気を震わせる。
――忘れろ。
――名も声も、虚無に沈め。
圧に押され、蓮の兵士たちが次々と掻き消されていく。
残された幻影も、存在を保つのがやっとだった。
「くそっ……耐えられない……!」
蓮の喉から血が溢れる。治癒の代償と囁きの圧力が同時に襲いかかり、身体の芯が削られるようだ。
巨影がもう一歩踏み出す。
そのたびに棚から本が吸い込まれ、空白へと変わっていく。
「……これ以上は……」
「蓮!」
リィナが彼の肩を掴んだ。
青い瞳は恐怖で揺れながらも、強い光を宿している。
「一人で抗うな。お前の意志と私の意志を重ねるんだ!」
「……俺と、お前の……?」
「そうだ。二人で刻めば、忘却を押し返せる!」
蓮は荒い息を吐き、笑った。
「……共闘残業かよ。ブラックにもほどがあるな」
リィナが一瞬呆れたように眉をひそめ、だがすぐに本を掲げた。
「行くぞ、蓮!」
「おう!」
二人の声が重なり、光が爆ぜた。
蓮はカードに文字を刻む。
『名を繋げ』
リィナは本を開き、声を刻む。
『記録を守れ』
その瞬間、光と声と鎖が溶け合い、巨大な柱のような輝きが広間を突き抜けた。
兵士たちが再び現れる。
だが今度は違った。
彼らの胸に蓮とリィナの両方の言葉が刻まれ、声が二重に響いた。
――我らは蓮の声。
――我らはリィナの記録。
――二つの意志をここに繋ぐ!
その咆哮が広間を震わせ、巨影の囁きを押し返した。
赤い瞳が揺らぎ、巨体が初めて後退する。
「……効いてる!」蓮が叫ぶ。
「まだだ! 押し切れ!」リィナの声が重なる。
巨影が怒り狂ったように胸の口をさらに広げる。
闇が渦を巻き、二人を飲み込もうと迫る。
蓮は血に濡れた唇で笑った。
「……俺一人じゃ足りなかった。でも、お前と一緒なら……!」
「愚か者……!」
リィナは言葉を切り、声を張った。
「だが、その愚かさに私も賭ける!」
二人の声が重なり、光がさらに強まった。
兵士の軍勢が巨影へと突撃し、闇と光がぶつかり合う。
広間全体が揺れ、本棚が崩れ、天井から瓦礫が落ちた。
だが二人は声を止めなかった。
「俺は藤堂蓮! 絶対に忘れない!」
「私はリィナ! 記録を守る司書だ!」
決意が共鳴し、光が爆発する。
巨影の赤い瞳が大きく見開かれ、苦悶の声を上げた。
霧が揺れ、巨体に亀裂が走る。
広間を覆っていた圧が、ほんのわずかだが薄れた。
蓮は膝をつき、荒い息を吐いた。
「……やっと……対等になれた……」
リィナも息を切らしながら頷いた。
「いいや、まだ序章だ。奴はこれから本気を出す」
巨影の胸の口が再び開き、深淵のような闇が覗く。
決戦はまだ終わらなかった。
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