出来損ないの私が、実は最強竜の娘でした!〜偽りの家族を捨てたら本当の私の居場所が見つかりました〜
当麻 咲来
プロローグ
──あの日。
赤竜の炎に燃やされ、殺されかけた私が、『最強竜の卵を抱いて生まれた、幸運な娘』と人々に呼ばれようになるなんて、誰が思っただろうか。
「ねえ、ティファ。ついにあの中に何があるのかわかるね」
アイリスが彼女の傍らに立つ愛竜に向かって声を掛けると、いつも通り明るい声が返ってきた。
「そうだね、アイリス。あそこにはアイリスにとって大切な物があるんだ。きっと……ボクにとってもね」
地下室に閉じ込められ、ろくな食事すら与えられず、ずっと虐げられていたアルフォルト侯爵邸。そこに連なる美しい竜の庭には、緑の木々に隠された石室がある。
空間を飛ぶことができる特別な竜、ティファだけがその場所を知っていた。
アイリスは初めてその場所を見た時から強く惹かれ、大事な秘密がそこにあると確信していた。
空は青く、空気は透き徹っている。緑は目に染みるほど深い。土の匂いも、花の香りもアイリスの魂の奥底で過去の記憶と深く結び付いている。
色々嫌なこともあったけれど、それでもここはティファと共に生まれた、大切な故郷なのだ、とアイリスは思う。
「じゃあ、私、行ってきます!」
ティファを肩に乗せて、決意を込めて振り返る。
そこにはアイリスとティファを優しく見つめる、ようやく手に入れることができたアイリスの愛する家族達の笑顔があった。
【何があっても大丈夫。だってアイリスの隣には……いつだってボクが、いるから】
そう。どんなことがあっても大丈夫。愛竜ティファがいる限り。
そして一人と一匹は、ずっと隠されていた真実を知るために、軽やかに一歩、踏み出した。
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