輪廻転生
カテラはクレムに噛みつかれたショックで前世を思い出していた。
前世は配達の仕事をしながら生きてきた。慣れた軽バンに荷物を乗せてお客様宅へ運ぶ日々。
そんなある日、薬学研究所に荷物を運んだ日。
その届けた荷物の受け取りサインを貰ったあと、職員さんが目の前ですぐに梱包を剥がし、中を覗いていた。一瞬何が入ってるのか気になったけど仕事上早く次を配達しないと指定時間に間に合わないので急いでいた。そんな時、お客様から声がかかる。
「あの!これやっぱり間違えてます!これ頼んでないです!お兄さん」
と、声をかけられ、立ち止まる。
そんな馬鹿な、書いてあった住所も名前も確認して合っていたのに違うって言うのは知らないぞ。
その瞬間は本当に一瞬だった。
鋭い閃光と共に爆発。
受付のお姉さん、周りの従業員、そして俺は爆発に巻き込まれた。爆風により玄関のガラス扉を突き破り外に弾き飛ばされた俺は強い衝撃で頭が混乱する。
(………な、なんだ…爆発?)
背中がガラスなどが刺さりズタズタで、前側の服は破け、皮膚が赤くなる。
そして、クラクラする視界のまま薬学研究所が爆発した惨状を目の当たりにした。
お姉さんの姿形はなく、周りの従業員の吹き飛び皮膚が爛れ、手や足が欠損した人もいた。倒壊した施設は火の手をあげる。
地獄のような光景に絶句した。しかし、それでは終わらなかった。
煙の色がおかしく、黒煙に混じって何か緑色の煙も上がっている。それはこの研究所にて非公式に進められていた化学実験の産物であった。
そんなことを知る由もない俺、福砂茂則(ふくさしげのり)は自分の持ってきた荷物でこの地獄が始まったことに気づき、気持ち悪さで胃の中のものを吐き出した。
そして、これは地獄の始まりでしか無かったのだ。爆発で絶命したであろう人達が明らかにおかしな様子で立ち上がった。
俺は迷わず「大丈夫ですか!!!」と声を振り絞って問いかけた。
すると返ってきたのは異様な死んだ魚の目をした瞳がこちらを睨み返し、大きなうめき声を上げた。
そして、そこからは動き出した人達が俺の方へグチャグチャになりながら走って俺の方へ来たのだ。ただ来ただけではない。まるでゾンビ映画のように、動けない俺に覆いかぶさり、その次には筋肉をブチブチとちぎり、皮膚を裂き、食い千切る。
数多くのゾンビが俺を食い漁った。
痛くてだるいのに、麻酔がかかったみたいに麻痺して、食われてる光景をうめきながら眺めるしか無かった。
その後世界がどうなったかは知る由もない。
---
そして気づいた時、俺は俺という存在が浮遊した魂のように、人魂になっていることを知覚した。
目の前に天使と形容するしかない、純白の大きな翼を生やした金色の髪をした体つきを見ると男なのだが、女にも見えるその容姿は美形であった。
欲情するような美しさではなく、敬遠してしまう美しさであった。
まさしく天使と思われる方がこちらを見る。
顔に、手に体全体でまさしく見ていた。
これは比喩ではなく、体全体に無数の目があるのだ。
そして口を開く。
「やぁ。人の子よ。私が見た中で何体目だったかな?忘れたよ。とても多くてね。何でだと思う?」
突然の質問で何をどう答えたらいいか分からないため何も言葉を発せなかった。それを察したのか、ため息をつく天使は厳かな雰囲気は壊れない。
「どうやら何も分かっていない様子だね。君は死んだんだ。そしてここは天国でも地獄でもないよ。君は閻魔王の元で裁きを受けず、私が変わりに裁きを下す。そんな狭間の場所さ。」
色々聞きたいことがあるのに口を開けない。というか口がない。魂だけだから。
「今閻魔庁はパンクしてんのさ。誰かさん達が恐ろしい兵器で人や動物を殺しすぎたのさ。もう地球という星には生命は残っていないさ。その原因を作った君達を閻魔王ではなくて僕が変わりに裁いているんだ。大体は地獄行きだけどね。」
ふふっと笑うと、すべての目がへの字を描き、とても不気味に映った。
「だけど、きみはね、どうも起因ではあるようだけど、ある意味巻き込まれただけ、みたいだからさ。寛大な処置を下してあげようと思ってね。」
パン!と手をたたくと、真っ白で何もなかった空間に輪っかができて、その中を覗くと見たことない世界が見える。
「君が輪廻転生する世界さ。よかったね。君はね転生できるんだ。地獄に行かなくていい。ただ、君はこの世界に行ってきて、生まれて死ねばいいだけなんだ。気楽だろ?」
若々しく可愛げのある声なのがとても不愉快で気持ち悪さを感じる。しかし、美しさもある見た目からこのチグハグ感がより恐怖を強くする。
「まぁ、この世界はさ、君たちのいた世界と違って廃棄予定なんだけど、その一因になってもらうことになったんだ。」
え?
なんだって?
「君がこの世界に滅びを与えるんだ。ちゃーんと君たちの大好きなチート?だっけ?それはあげるからさ。ゲームみたいに楽しんでよ。僕も好きなんだ。ゲームってやつは。だからチートスキルをもって異世界転生。楽しんでね」
まって!まて!
なんだよそれ!
どういうことだよ!
「君のスキルはね。『感染』『支配』『扇動』のスキルさ。これは強いよ。まぁ、ちゃんといきなり何でもできるようにはしないさ。面白くないからね。君が初めて、『感染』のスキルによって誰かを感染させた時、君は前世を思い出すように鍵をかけてあげるから。『感染』は君の体液を少しでも摂取した時点で感染する協力なスキルさ。もし殺されても大丈夫だから。君の血が、臓物が、相手にかかればゾンビになる。後は待てばゾンビの軍勢の出来上がりさ。まぁ、また思い出した時にスキルを確認するといいよ。」
天使はヘラヘラと喋り、理解しがたい事を簡単に宣う。
これは現実か?そんな事を考えるまもなく、転生が始まった。どす黒い闇に包まれるように視界が暗転していく。
「じゃあ、良い旅を。他の悪いやつと違って地獄行きじゃなくて良かったね。君はまだ希望があるさ…」
そんな言葉を途切れに俺の意識は闇の中に消えていった。
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