第38話 お助け冒険団、誕生

淡く光る星屑キノコが、遺跡の闇を星空のように照らしていた。

キノコの傘からは、わずかに触れるだけで毒性の胞子が立ち上る。


「これじゃあ危なくて近づけないな……」カイルが鼻を覆いながら顔をしかめる。


アレンは一歩前に進み、深く息を吸った。

「俺が風を流し続ける。追い風で胞子を外へ飛ばしながら採取しよう」


詠唱とともに、柔らかな風が外へと流れていく。

胞子が次々と風にさらわれ、霧のように薄れながら夜空へと消えていった。


「……これなら安全だ」

アレンの声に、リリアナが短剣を手に進み出る。

「任せときなさい」


ソフィアは慎重に花弁のような笠を切り取り、セレーネは袋を持って受け取る。

アレンは途切れることなく風を送り続け、淡い光の中で安全な環境を作り上げていた。


「ほんとに……あんた何でもありだねぇ」

リリアナが半ば感心しながら、手際よく葉や粉を集めていく。


やがて十分な量を確保すると、アレンは魔法を解除し、仲間たちは互いに顔を見合わせて笑みを浮かべた。



帰り道。月光に照らされた草原を歩きながら、カイルが口を開いた。

「なあ、そろそろパーティー名を真剣に決めないか? “リリアナとその仲間たち”はさすがにないだろ」


「ええ!? 気に入ってたのに!」

リリアナが即座に抗議すると、セレーネがくすりと笑う。

「でも確かに、特徴が何も伝わらないですわね」


「じゃあ、俺たちの特徴ってなんだ?」カイルが首を傾げる。

「許嫁3人?」とソフィアが小声で言い、顔を真っ赤にした。

「違う!」リリアナとセレーネが即座に否定する。


アレンは少し考え込み、ぽつりと呟いた。

「……何でも請け負っちゃう、お人好しなところ、かな」


「それだ!」カイルが手を打つ。

「つまり“なんでも屋”? “善人団”? いや……“お助け冒険団”ってのはどうだ!」


一瞬の沈黙の後、全員の顔に笑みが浮かんだ。

「威厳はないけど……確かに、私たちらしいわね」リリアナが肩をすくめる。

「うん、悪くないと思います」ソフィアが頷く。

「人を助けるのが冒険者の本懐ですし、ふさわしい名ですわ」セレーネが微笑む。


こうして――彼らの新たなパーティー名、お助け冒険団が誕生した。

夜空に瞬く星々が、その決意を祝福するかのようにきらめいていた。



月光草と星屑キノコを無事に手に入れたアレンたちは、その夜ギルドへ報告に向かった。

素材はすぐに依頼主のレストランへ送られるということで、翌日に直接訪れるよう指示を受ける。


そして翌日。

店主に会ったアレンが問いかける。

「これで“月影のクラッカー”は作れますか?」


店主は素材を手に取り、目を輝かせて頷いた。

「ええ、素材さえあれば難しい工程じゃない。増強効果は素材に含まれる成分を引き出すだけですからね……一時間もあれば完成しますよ」


厨房に立つ店主の手は迷いなく動き、やがて香ばしい匂いが広がってきた。

焼きあがったのは、月光草の葉を練り込み、星屑キノコの粉をまぶしたクラッカー。

表面がほんのりと輝き、割ればきらめく粉が舞う、神秘的な携帯食だった。


「本来は冒険中に齧る非常食らしいですが……せっかくなので、ここで食べてみますか?」


アレンたちは頷き、それぞれ一枚ずつ手に取った。

パリ、と噛むと、独特の草の風味に加えてキノコのほのかな甘みが広がる。


次の瞬間――。


「お、おおっ……!」

アレンの体内を熱が駆け巡り、全身の血流が早まるような感覚に襲われた。

魔力が昂ぶり、指先からでも強力な魔法を撃ち出せそうな力が湧いてくる。


「……すごい、体が熱くて……魔力が澱みなく流れるのを感じます」

ソフィアが驚きの声を漏らし、セレーネも目を輝かせる。

「これは……確かに戦況をひっくり返せる力ですわね」


一方で、カイルとリリアナは首を傾げていた。

「ん? なんも変わんねえぞ」

「私も。魔力なんてほとんどないから……」


アレンは苦笑しながら答える。

「効果は確かにある。ただし、魔力消費も激しい……本当に切り札だな」


食後、店主は小箱に詰めたクラッカーを差し出した。

「約束通り、報酬分をお渡しします。残りは店で販売させてもらいますが……この効能ならすぐに売り切れるでしょう」


「ええ、間違いなく人気商品になるでしょうね」

セレーネが満足げに頷き、リリアナは腕を組んで言った。

「よし、とりあえず一つ成果が出たわね」


こうして、“幻の魔力増強レシピ”の一品目が現代に蘇り、アレンたちは確かな手応えを胸に次の冒険へと歩み出すのだった。

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