第38話 お助け冒険団、誕生
淡く光る星屑キノコが、遺跡の闇を星空のように照らしていた。
キノコの傘からは、わずかに触れるだけで毒性の胞子が立ち上る。
「これじゃあ危なくて近づけないな……」カイルが鼻を覆いながら顔をしかめる。
アレンは一歩前に進み、深く息を吸った。
「俺が風を流し続ける。追い風で胞子を外へ飛ばしながら採取しよう」
詠唱とともに、柔らかな風が外へと流れていく。
胞子が次々と風にさらわれ、霧のように薄れながら夜空へと消えていった。
「……これなら安全だ」
アレンの声に、リリアナが短剣を手に進み出る。
「任せときなさい」
ソフィアは慎重に花弁のような笠を切り取り、セレーネは袋を持って受け取る。
アレンは途切れることなく風を送り続け、淡い光の中で安全な環境を作り上げていた。
「ほんとに……あんた何でもありだねぇ」
リリアナが半ば感心しながら、手際よく葉や粉を集めていく。
やがて十分な量を確保すると、アレンは魔法を解除し、仲間たちは互いに顔を見合わせて笑みを浮かべた。
◇
帰り道。月光に照らされた草原を歩きながら、カイルが口を開いた。
「なあ、そろそろパーティー名を真剣に決めないか? “リリアナとその仲間たち”はさすがにないだろ」
「ええ!? 気に入ってたのに!」
リリアナが即座に抗議すると、セレーネがくすりと笑う。
「でも確かに、特徴が何も伝わらないですわね」
「じゃあ、俺たちの特徴ってなんだ?」カイルが首を傾げる。
「許嫁3人?」とソフィアが小声で言い、顔を真っ赤にした。
「違う!」リリアナとセレーネが即座に否定する。
アレンは少し考え込み、ぽつりと呟いた。
「……何でも請け負っちゃう、お人好しなところ、かな」
「それだ!」カイルが手を打つ。
「つまり“なんでも屋”? “善人団”? いや……“お助け冒険団”ってのはどうだ!」
一瞬の沈黙の後、全員の顔に笑みが浮かんだ。
「威厳はないけど……確かに、私たちらしいわね」リリアナが肩をすくめる。
「うん、悪くないと思います」ソフィアが頷く。
「人を助けるのが冒険者の本懐ですし、ふさわしい名ですわ」セレーネが微笑む。
こうして――彼らの新たなパーティー名、お助け冒険団が誕生した。
夜空に瞬く星々が、その決意を祝福するかのようにきらめいていた。
◇
月光草と星屑キノコを無事に手に入れたアレンたちは、その夜ギルドへ報告に向かった。
素材はすぐに依頼主のレストランへ送られるということで、翌日に直接訪れるよう指示を受ける。
そして翌日。
店主に会ったアレンが問いかける。
「これで“月影のクラッカー”は作れますか?」
店主は素材を手に取り、目を輝かせて頷いた。
「ええ、素材さえあれば難しい工程じゃない。増強効果は素材に含まれる成分を引き出すだけですからね……一時間もあれば完成しますよ」
厨房に立つ店主の手は迷いなく動き、やがて香ばしい匂いが広がってきた。
焼きあがったのは、月光草の葉を練り込み、星屑キノコの粉をまぶしたクラッカー。
表面がほんのりと輝き、割ればきらめく粉が舞う、神秘的な携帯食だった。
「本来は冒険中に齧る非常食らしいですが……せっかくなので、ここで食べてみますか?」
アレンたちは頷き、それぞれ一枚ずつ手に取った。
パリ、と噛むと、独特の草の風味に加えてキノコのほのかな甘みが広がる。
次の瞬間――。
「お、おおっ……!」
アレンの体内を熱が駆け巡り、全身の血流が早まるような感覚に襲われた。
魔力が昂ぶり、指先からでも強力な魔法を撃ち出せそうな力が湧いてくる。
「……すごい、体が熱くて……魔力が澱みなく流れるのを感じます」
ソフィアが驚きの声を漏らし、セレーネも目を輝かせる。
「これは……確かに戦況をひっくり返せる力ですわね」
一方で、カイルとリリアナは首を傾げていた。
「ん? なんも変わんねえぞ」
「私も。魔力なんてほとんどないから……」
アレンは苦笑しながら答える。
「効果は確かにある。ただし、魔力消費も激しい……本当に切り札だな」
食後、店主は小箱に詰めたクラッカーを差し出した。
「約束通り、報酬分をお渡しします。残りは店で販売させてもらいますが……この効能ならすぐに売り切れるでしょう」
「ええ、間違いなく人気商品になるでしょうね」
セレーネが満足げに頷き、リリアナは腕を組んで言った。
「よし、とりあえず一つ成果が出たわね」
こうして、“幻の魔力増強レシピ”の一品目が現代に蘇り、アレンたちは確かな手応えを胸に次の冒険へと歩み出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます