1000年に一人の逸材だけど、依頼が多すぎて人生ハードモード

紡識かなめ

第1話 1000年に一人の逸材、冒険者デビュー!

アウリス王国の首都、王都ルーヴェン。

魔導照明で夜も煌めく大通りを歩く青年に、人々の視線が集まっていた。


「見ろ、あれが……」

「剣聖ライオネルの息子、アレンだ」

「母は大魔導士セリーヌだろ? あの両親の子供だ……千年に一人の逸材って、本当なんだな」


彼の名はアレン=ライオネル、十八歳。

剣聖と大魔導士という英雄譚の主役のような両親に育てられ、幼いころから剣も魔法も叩き込まれた。

十五歳の時、王立学院で行われた模擬試合に出場し、なんと上位Sランク冒険者に互角で渡り合ってしまったことから、一躍「逸材」として王国中に知られる存在となった。


もっとも、両親は厳しくも温かな人々だ。

「アレン、剣も魔法も、ここまで鍛え上げれば立派だ。だが──」と父は言った。

「本物の冒険者は、実戦と仲間に育てられるもの。気を抜くなよ」

母も微笑みながら「困ったら戻っておいで。でも、その前に自分で考えなさい。あなたならきっとできるから」と背中を押してくれた。


期待と不安を胸に抱き、アレンは今日、冒険者ギルドへ足を踏み入れる。



広間に足を踏み入れた瞬間、ざわりと空気が揺れた。

冒険者たちの視線が一斉に集まる。羨望、嫉妬、好奇心。

どれもアレンには慣れたものだったが、心臓の鼓動が速まるのを抑えられない。


「冒険者登録をお願いします」

受付嬢のエマ=クローディアが、にこやかに迎えた。

「お待ちしていました、アレン様。国中が注目する日ですね」


登録は滞りなく済み、金色の縁取りが施された冒険者証が手渡された。

アレンは深く息を吸い込み、宣言する。

「今日から僕は冒険者だ。世界を平和に導いてみせる」


だが、エマは微笑んだまま、少し困ったように首を傾げた。

「……その前に、注意点がございます」

「え?」

「アレン様といえど、冒険者規約は同じです。単独行動は禁止。最低でも一人は仲間を連れて依頼を受けてください」


「……仲間、か」

思わず呟く。


確かに、剣技も魔法もSランク上位陣に並ぶ実力を得た。

けれど──模擬試合はあくまで模擬試合。本物の実戦経験はない。

父が「仲間に育てられろ」と言った意味が、今さらながら胸に響いた。


エマが依頼書を差し出す。

【Fランク依頼:近郊の丘での薬草採取】


「初依頼はこちらになります。ただし、誰か仲間を見つけてから挑んでください」


──英雄譚の第一歩は、薬草採取と仲間探しから始まる。

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