第33話 ミルフィナが大事だ(後半はミルフィナ視点)
"解析"が残っているなら、やつ自身の攻撃を見て行けば可能性はあるかもしれない。
むしろ作らないといけない。
でも本当にやるのか?
あれは間違いなくストーリーの先にいるキャラだ。
今倒してしまった時の影響が読めないのは確かにそうだ……。
仮に倒してしまったら、魔王はどうなる?
チュートリアルはどうなる?
この大陸への魔王軍の進行はどうなる?
この時点のファガファデトが何に絡んでいたのかがわからない。
もしかしたら無関係で、予定通りに物語が進んで行くかもしれない。
いや、むしろそのためのギミックとして登場したのかもしれない。
俺を消すために。
俺自身、強くなりすぎている自覚はある。
すでに魔王自身が制覇を諦めた魔大陸のモンスターを倒せるし、遺跡ダンジョンで現れたイレギュラーなモンスターも倒した。
本来、ファルスが憎みまくっているはずの竜人なんか敵じゃないし、魔王だって普通に相対すれば勝てるだろう。
だからファガファデトを投入するしかなかったのかもしれない。
やつは獲物を見定めたら絶対に逃さないモンスターだ。キャラ説明にそう明記してあった。
いったんエンカウントしたら全滅するか、倒しきらないと戦いは終わらない。
しかもこれが物語の介入だとしたら……。
もしそうならファガファデトは俺が知る強さではないのかもしれない。
俺が知ってる攻撃パターンじゃないかもしれない。
そもそも"創造"を消し去るスキルなんて単独のモンスターがなしうることだとは思えない。
でも、いいのか?
諦めらるのか?
このままミルフィナちゃんを。
あいつは死体を喰らうモンスター。
いくらメインストーリーの主要キャラとはいえ、今のミルフィナちゃんは騎士程度の戦力でしかない。
ファガファデトの攻撃をミルフィナちゃんが耐える、なんてことは不可能で、俺が諦めたらそこで彼女の命は絶えるだろう。
そんなことを許せるのか?
もし仮に俺がここで諦めたらミルフィナちゃんは死ぬ。
そうして俺だけが生き残る。
そんな未来が楽しいのか?
そんな未来で満足なのか?
俺はそんな世界をどんな顔で生きていくんだ?
今朝目覚めたときのあの可愛らしい顔。
はにかんだような、恥ずかしそうな。それでいて嬉しそうで幸せそうな表情。
俺は何のために頑張って来たんだ?
ミルフィナちゃんと一緒に生きていくために頑張ってるんじゃなかったか?
俺は……。
自然に一歩を踏み出す。
俺は何を考えていたんだ。
こんな愚問。考えるまでもないだろ?
チュートリアルが変わってしまう?
ストーリーが変わってしまう?
上等じゃないか。
そうしないとミルフィナちゃんと一緒に生きていけないのなら、そのストーリーに抗うだけだろ?
もし今ここでミルフィナちゃんがファガファデトに喰われたりしたら、俺が今後生きる意味はない。
保身で頭でっかちになって動けないなんて、そんなやつクソ食らえだ。
俺は無事に生き延びて、ついでに魔王も倒して、ミルフィナちゃんとのんびり生きるんだ!
やってやる。やってやるぞ!
絶対に俺はミルフィナちゃんを取り戻す!
急に現れてかっさらわれそうになっている俺達の未来を取り戻すんだ。
俺はファガファデトが作り出した空間に足を踏み込み、全力で駆けた。
◆ミルフィナ
……ぼんやりとした意識の中、わかるのは私が目の前にいる大きなモンスターに攫われてしまったということです。
きっとアゼル君に迷惑をかけてしまっているということ……。
情けない……。
アゼル様は一生懸命努力されていました。
そんな彼に相応しい人になろうと決めて、私自身も魔法剣士として努力はしていました。
でも、そんなのは月並みなものだったのです。
決してアゼル様みたいに特異なものではなく、せいぜいが騎士見習いのようなものです。
実際に騎士見習いの子とは打ち合いになっても、騎士には勝てません。
しいて言えば、頑張って覚えたあの魔法があれば驚かせながら一撃入れることはできるかもしれません。
そんな程度なのに舞い上がって押しかけた結果、足手まといになってしまいました。
情けない……。
アゼル様はこのモンスターを倒しに来るでしょう。
うぬぼれではないですが、心配していただけるくらいの関係にはなれたと思います。
それに彼は、ダンジョンから湧き出たモンスターも、進撃してきた巨大な魔人も、どんな状況でもなんとかしようとしてきました。
実際に解決してきました。
その次に現れたのがこの巨大な怪物です。
どうしてアゼル様の周囲でこんな事件ばかり起きるのかはわかりません。
でも、アゼル様じゃないと絶対に対応できないと断言できます。
こんな恐ろしい相手……。
どうかアゼル様が傷付きませんように。
私なんかのことを気にしないでくれますように。
……意識がどんどん薄れていきます。
私の体から魔力が失われているのがわかります。
その魔力は目の前の怪物に流れています。
きっと私の魔力を喰らっているのでしょう。
さっさと終わらせてほしい。
そうすればアゼル様の足手まといにはならないから。
もし人質のように使われてしまって、アゼル様が死ぬようなことになったら、私は生きてはいけません。
生きる意味なんてなくなってしまいます。
あの可愛らしい天使のようなアゼル様。
いつかきっと隣に並んで恥ずかしくない人間になる。
そうして堂々と一緒に暮らしていく。
それが私の目標。私の夢。
それが叶わないなら……私が死ぬべきです。
早く流れなさい、私の魔力。
魔力が尽きてしまえば、あとは喰われて終わることでしょう。
そうすればアゼル様は何の遠慮もなく戦ってこいつを倒すの。
こんなモンスターにアゼル様が負けるわけがないのですから!
だから……。
早く……。
魔力の流れに自分の体の中にある魔力を押し出す。
もちろん攻撃魔法を唱えながら。
少しでもダメージを与えたいの。
グォォォォオオオォォォォオオオオオオオオ!!!!
私の足掻きに気付いたのか、怪物が唸る。
けども、私には何も起こらない。
これは間違いなくアゼル様が来たから。
近付いて来るのを感じる。
早く……早く!
足手まといになるわけにはいかないの……。
ふと、怪物が私を見ていることに気付く。
なに?
ひと思いに殺して食べなさいよ。
そうしたらアゼル様がきっと仇をうってくれるんだから!
「ウインドカッター!」
そこに飛来した風の刃が魔力の流れを断ち切り、私は空中に放り出される。
気付いてもいなかったが、どうやら空中に固定されて魔力を吸われていたようだ。
アゼル様が来てしまいました。
でも、私が予想しているようにはならないようで、安心しています。
無力な私のことはあとで何回でも謝ります。
どうか……どうかあとはよろしくお願いします……。
助けて頂いて、ありがとうございます……。
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