第32話 あれは隠しボス……なんで今!?

 ついていくと、もやもやとした雲のようなものが浮かんでいて、その中央が漆黒……おかしいだろ?


 その雲の前に落ちているミルフィナの持ち物……

 行くのか?シエニアの地下ダンジョンの隠しボスのもとへ?今そんなことをして物語は変わってしまわないのか?

 




 って、おかしいだろ!?

 なんでファガファデトが?


 あいつは遺跡ダンジョンの奥底に眠ってるはずの隠しボス。

 1週目で倒すなんて挑むだけムリな超強力ボスじゃねーかよ!?

 ふざけるな!?


 ミルフィナちゃんを攫って行ったのか?

 マジかよ……。


 あいつ、通常ルートで魔王を倒した程度じゃ歯が立たなくて、エクストラストーリーの中で特殊アイテムを集めて超強化したパーティーでようやく戦いになるレベルなんだぜ!?

 

 その戦闘スタイルは純粋な超攻撃力による力押しだ。


 防御力が足りなければ一撃で粉砕されるし、攻撃力が足りなければダメージが入らない。

 まだ全てのストーリーが公開されていなかったから不明点もあるけど、神に至る頂で待つ破壊神とか言われてたモンスターだ。


 普段は別次元から無理やりこじあけた穴から耳だけ出してこの世界の様子を監視している。

 悪食で喰らうために死体を見つけたら穴に引きずり込んでくるヤバいやつ。

 

 なんで今出てくるんだよ!?



 呆然としてふと地面を見ると、ミルフィナちゃんにあげたネックレスが落ちている。


 ジュジュジュジュジュが嘘をつくとは思えなかったが、これで確定した。

 

 ミルフィナちゃんはこの雲の中にいる。


 助けに行くなら間違いなくファガファデトとの戦いになる……。






 勝てるのか?



 いや、そもそも戦うのか?



 敵はゲームのぶっ壊れ隠しボス。

 しかもその存在はエクストラストーリーとは言えども物語に登場してくる敵なわけだ。


 こんなところで倒したら物語を変えてしまうことになるんじゃないだろうか?


 つまり、俺の力が各所に知れ渡り、予定通りのチュートリアルがやって来ないかもしれない。


 そうなったときに何が起こるのかはわからない。

 予想できない世界になってしまうんだ。


 必ず死ぬキャラであるアゼルディストは、その世界で生き残ることはできるのか?

 俺がいままでやってきた準備は無駄になってしまわないのか?




 グォォォォオオオォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!



 考えはまとまらないが、しかし現実は止まらない。


 俺が来たことを知覚したのか、次元の穴から出て来てしまっているファガファデトがこちらを睨んで大きく吠える。



 その声に全身の毛が逆立つ。



 こういう時こそ平常心擬態の出番だろうとか余計なことを考えてしまうのはきっと逃避だろうな。


 しかし、俺にはそれすら許されないようだ。



 キュキュキュキュキュ!?


 咆哮はブレスだったのか!?


 それは決して攻撃魔法には思えなかった。

 それに見渡す限り全方位に振りまかれたその魔力を避けることは不可能に思えた。


 ゆえに魔法障壁だけは展開していたが、無駄だったようだ。


 やつの魔力が俺にまとわりついてくる。

 

***


 No.863 "ダミー"


 ほぇ?


***


 は?

 どういうことだ?


***


 No.864 "ダミー"


 おい!?


 No.865 "ダミー"


 なにやってるんだ!?


 No.866 "ダミー"


 待て! バカなことをするな!?


***


 俺がやってるわけじゃない。

 この光……ファガファデトが?

 これは?

 

***


 No.867 "ダミー"


 1000に行ってしまうぞ!?


 No.868 "ダミー"


 やばいって!


 No.869 "ダミー"


 いや、もしかして?


***


 もしかしてなんだよ?

 何か知ってるのか?

 教えてくれ!


***


 No. 870 "ダミー"

 No. 871 "ダミー"

 No. 872 "ダミー"

 ……

 ……

 ……

 No. 996 "ダミー"


 やっぱりだ……。"試練"が発動してる。

 

***


 なんでだよ?

 まだ1000になってなかっただろ?

 なのに試練が?

 まさか……それで1000まで"ダミー"で埋められそうになってるのか?

 そんな力がファガファデトにあったのか?


***

 

 No. 997 "ダミー"


 お前なにをやったんだ?


 No.998 "ダミー"


 いや、こんなことを言っても仕方がないな。もう起きたものは仕方がない。


 No.999 "ダミー"


 自信を持って頑張れ。その言葉だけだ。


***


 待て。どうなるんだよ、これ!?


***


 No.1000 "固着"(固定)

 

 これだけねじこんどいてやる。頑張れ……。


***


<アゼルディストは複数の魔法を創造しました>

<"創造"の使用を確認:カウント:1000/1000>

<"創造"がLv4になりました>

<大いなる試練もまた必要だ。超えし者は高みに至る>

<アゼルディストはこれまでに創造した魔法を失いました>

 


 どうすればいいんだよ!?

 このタイミングで創造で創った魔法を全部失ったのか!?


<アゼルディスト第三王子>

 <コマンド選択> 

  <魔法>

   ― 回復魔法

   ― 攻撃魔法

   ― 防御魔法

   ― 補助魔法

   ― 創造魔法("固着"により"解析"のみ使用可)


 ……やっぱり失ったらしい……。

 一応、普通に覚えた魔法たち……"魔法障壁マジックシールド"とかは残っている。

 だけど、遺跡ダンジョンのボスを圧倒した"既に斬った後だ”とかは使えなくなっていた。




 グォォォォオオオォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!


 再び吠えるファガファデト。



 この状況で戦えって言うのかよ……。



 思い出される司書の言葉。これはこのことを言っていたのか?

 でも……俺の知らない力を持っているこいつを倒してしまってチュートリアルが変わってしまったらどうなるかわからない。

 

 ファガファデト自体は基本力押しだ。

 

 ゲームでも対峙した俺の頭の中には攻略した経験がある。

 やつが攻撃を放ってきても魔法障壁で耐えれるだろう。


 攻撃力の高いスキルは全て創造で創ったものだったから、そこがネックだが……。


 やるしかないな……。



 あぁ。



 そうだ。



 やってやる。



 待ってろ、ファガファデト!

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