第38話

「初夜の式典をもう一度やり直して欲しい」

そんなアドルフのお願いが一瞬頭の中でこだますると、頭が一瞬フリーズしてから再起動するまで一瞬の空白が広がった。

「……初夜の式典のやり直しって、なんかあったか?もしかしてちゃんと済ませてないならふうふじゃないとか誰かに言われたのか?」

「そうじゃない!そうじゃなくて……その、やっぱり心身ともにユキと結ばれたくなっただけで……」

アドルフは話してる途中で恥ずかしくなって来たのか俯いて視線を逸らしてくる。

俺と心身ともに結ばれたくなったというアドルフの話と、これまでのアレコレを踏まえて出て来たのはひとつの答え。


「……アドルフは俺のことを1人の男として恋してくれてるって、事なのか?」


俺の問いかけにまだ思春期の名残りを濃く残した19歳の顔が耳たぶまで真っ赤に染まっている。クッソかわいい。

「だとしたらいつから俺のこと好きだった訳?!」

「……たぶん、最初から。ロザリーの夢の一件で自覚した」

「自覚したのがその辺って事はその後にあった股間当てとかその辺みんなわざとやった事だったりするのか?!あれお前からの襲ってくれってサインだったのか?!」

アドルフが黙って頷いた。あの時の俺の我慢はいったい何だったんだ?と言いたいが、今ここでそんな話をしても仕方がないのでまずは俺の考えを話そう。

そこから始めないと話が進まない気がする。

「……アドルフ、俺はずっとこれは政略結婚だから多分そういうことをお前は望んでないと思ってた。結婚式の時は純粋に覚悟も出来てなかったから、やらないと言ってくれたのは正直助かったなと思ってたしその後も明確には示されなかったから違うのかなって思ってたし」

「そんな事は無い!」

「前に言ったろ?人間の目は2個しか無いんだから、自分の見えないところは確かにあるんだって。俺はアドルフの気持ちが見えないから手を出さなかった」

でもこうしてアドルフ自身が俺との肉体的な関係を望んだのだ。ならば今更かもしれないが、ちゃんと初夜の式典をやり直しても何の問題もない。あちらでの儀礼的な都合は置いといてこれは俺とアドルフが精神的にしっかり結ばれた事を確認するための儀式だ。だからこの初夜のやり直しに観客は要らない、俺たちだけでいい。

「だから、やり直そうか。あの時出来なかった初夜の式典を」

俺がそう聞くとアドルフの視線が俺の方を向いた、その瞳は希望で明るく輝いている。

「……やる!」


*****


アドルフとの初夜の式典やり直しは日本の年度末の多忙さも落ち着いてある程度ゆっくり出来そうなタイミングにしようと、ということで俺たちの結婚1周年の日の夜になった。

それまでの間少しづつお互いに覚悟と準備を整えておこう、そんな話でまとまった。

そうなると添い寝が少し恥ずかしくなってきたらしいアドルフが「初夜のやり直しの日まで1人で寝る」と言い出した。俺のためにもそうして欲しい。

俺たちのすったもんだを眺める邸宅付き従者の皆さん達の生暖かい目に謎の羞恥心を刺激されながら、俺の方も覚悟を決め直して初夜に向けた準備をしているとはたと気づくことがあった。


「アドルフって俺のこと抱くつもりなのか?それとも抱かれるつもりなのか?」


俺個人としては正直抱きたいかな?の方が勝つが、アドルフが望むなら抱かれる方もやぶさかではない。目に入れても痛くないくらい可愛いアドルフだ、ケツに挿れたって痛くないはずだ。いや物理的には知らんがな?

とりあえずどっちも出来るように準備と覚悟を整えておくべきだろうか。

そうしてまた、この街に桜の季節がやってくる。

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