第37話

恋人の日をほとんどベットの上で過ごしているうちに、日がすっかり沈んできてしまう。

「何で特に何もしてないのにお腹は空くんだろうな……?」

「人間は不思議だな」

そんなことをぼやきつつ夜ご飯を平らげると、アドルフから脇を広げると話だから異空間が発生する。

「何それ?」

「収納魔法だな、これがあるとちょっとしたものを目立たずに運ぶことができる」

そう言って取り出してきたのは高級そうな箱だ。

「初めての恋人の日の記念に用意して来た」

「サプライズって奴か!」

いつの間にそんなサプライズを仕込んできたんだか、と笑ってしまう。

まったく俺の夫は優秀過ぎる。

「開けても?」

「もちろん」

ユキに言われるがままに開けてみると、そこにはいかにも高そうな雰囲気をしたオシャレな小箱とこちらもお高そうな雰囲気のドリップオンコーヒーの袋がセットになっている。

もしかして?と思ってオシャレな小箱の方も開けてみると、中身は色とりどりのチョコレートだ。

「王城のパティシエに作って貰ったチョコレートだ。サルドビア領の離島で作られたカカオ豆と砂糖で出来てる」

チョコには疎いがテレビでよく見るようなブランドチョコにも引けを取らない綺麗な見た目に「おお……!」と感嘆の声が漏れる。

「日本の恋人の日にはチョコレートを交換するんだろう?良き夫してこういうのを欠かしてはいけないと思って用意しておいた」

アドルフは良き夫たろうとしてそうしてるのだが、どうせなら俺が好きだから用意してくれたとか言って欲しかった気もする。

(まあそこまでねだるのは欲深いかな……)

あくまで俺が勝手に好きなだけなのだし、恋人の日の記念日にチョコをくれるだけマシと言える。

それはそれとして可愛い夫からの初めてのプレゼントだ。ちゃんと美味しくいただこうじゃないか。

「じゃあ早速頂こうかな」

そう言ってチョコを一粒頬張れば、チョコレートの甘さを引き立てる苦味の中に濃い果実の風味を感じる。中にジャムか何か入ってるんだろうか?

コーヒーも飲もうかと思ってパックを開ければ、アドルフがさっとお湯を沸かしてコーヒーを入れてくれる。

こちらも苦味と酸味のバランスが良くてコーヒーには不思議とよくあっている。

「ありがとう、俺の可愛い旦那様」

「かわいい、のか?」

「10歳も下の相手が可愛くないはず無いだろ?」

「かわいいよりカッコいいの方がいい」

「ははは……確かにそうかもな。ごめんごめん」

そんな話をしながらチョコを頬張っているとあっという間になくなってしまう。

「美味しいものは一瞬だなぁ」

残念ではあるけどコーヒーはまだ残ってるし、また別の機会にネットでいいチョコを買ってコーヒーと一緒に楽しむことにしよう。

「ユキ、」

「うん?」

「……その、サルドビアでチョコは媚薬なんだが、大丈夫か?」

「別に?」

確かに何かの話でチョコは昔媚薬だったと言う話を聞いたが、さすがにチョコで発情してしまうようなことはない。ちゃんともしてますからね。

「そうなのか?!」

「日本だと定番お菓子だからなー、さすがにチョコ食べるたびに発情してから社会が崩壊するって」

「ぬう……そうか……」

ムムム、と考え込んだアドルフは一旦置いといて近くにいたメイドさんにチョコとコーヒーを全部俺の部屋へ運んでもらう。

コーヒーもチョコレートの小箱も大事にさせて貰おう、なんせ初めてのプレゼントですからね。

「ユキ、一つ聞きたいんだ」

「うん?」

「この一年で俺以外の誰かを好きになったりしたか?」

「ないない!アドルフがいるんだぞ?既婚者に言い寄る奴なんか流石にいないって!」

「それなら、お願いがあるんだ」

「あんまり無茶ことでない限りは聞くぞ?」


「もう一度初夜の儀をやり直して欲しい」


「……ハイ?」

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