第30話

アドルフで抜いてしまった翌朝、つまりクリスマスの次の日。

「……なあ、添い寝ってずっと続けるのか」

アドルフが「え?」と驚いたような声を上げる。

「いや、なんというか、嫌じゃないのかと思って」

「嫌ならそもそも添い寝なんて最初からしないと思うが」

アドルフは添い寝を断固続けたい方針らしい。

「それはそうなんだけどな」

「辞めたいと思った理由は?」

昨日の夜俺の身にナニがあったのかを言えば良いのだが、さすがに何があったのかを説明し辛い。本人に言ったらだいぶキモがられそうだし、あと配膳してくれてるメイドに聞かれるのも嫌だ。

というか成人したての10歳下の男で抜くってだいぶ倫理的にギリギリな気がする、夫だけど。

「……やっぱいいや」

「教えてくれても良いんじゃないか?」

「そのうち話すよ」

「教えてくれないのか」

「アディだって言い辛いことのひとつふたつあるだろ?」

むうっと年相応に幼い表情を見せてきた。

(クソ、可愛いな俺の夫!)

こうした一挙手一投足に振り回されている時、自分が持ってるはずの10年分の人生経験アドバンテージがさっぱり役に立たないと思い知る。それがアドルフが異世界人だからなのか、俺の心の奥に芽生えてしまったものがそうさせているのか、それすらさっぱりつかめない。

「わかった。いつか教えると約束してくれ」

「いつかな」

本当にこの話をする日が来るのかは未知数だが、もしそうなってもここに居場所がなくなるような事だけは避けたいと心底思うのであった。


*****


さて地球のクリスマスも終わった12月27日から、サルドビアでは冬至前のホリデーシーズンになる。……うん、わかりにくいな。

サルドビアと日本では冬至の日付が異なり12月31日が冬至(つまり夜が一年で一番長い)になり、クリスマスより後に冬至が来る。ちなみに夏至は1年の折り返しという位置付けで盛大に祭りをする。

そんなホリデーシーズンは一年間日本で暮らしてきた日本駐在外交使節団の彼らにとっては、慣れない異世界での暮らしから離れて久しぶりに家族の元へと帰れる日でもある。

しかし、俺にとってはサルドビアにいるアドルフの家族やサルドビア国民への挨拶をしに行く日でもある。

(旦那の実家に行きたがらない嫁さんってこういう気持ちなんかなあ……)

サルドビアに行けばアドルフ王子の夫として国民にとって最も目につく日本男性のサンプルの一つとして見られることは簡単に想像がつく、そんな人間がサルドビア人から非常識な人間に見えてしまえば両国の関係性にまで影響しかねない。

外国人が犯罪を起こしたら事件の発生率に関わらず⚪︎⚪︎人はこの国の治安を悪化させてると言われるように、サルドビアで非常識に振る舞えば日本のイメージまで落としかねない。

この一年でリュシル先生から叩き込まれた行儀作法はもう覚えた、あとは気を抜かないこと。メイドや下男でも変なとこ見られたら王宮中の噂になってしまう。

(唯一の救いは俺も実家に帰ってのんびりできることぐらいか)

アドルフはちょっと多忙なので俺1人での帰省になるがかえってその方が気兼ねせずに過ごせる。

「ユキ、荷物の準備終わ……量多くないか?」

「財務大臣からサルドビアの王宮にいる孫に渡して欲しいって言われてさ、それに王宮には日本大使館の人たちもいるからその人たちへのお土産」

アリシア王女と結婚した高梁さんはどうしても帰国の都合が合わず日本へ帰れないので、せめて異世界の地で頑張る孫に日本のものを食わせたいと頼まれたのだ。

カップ麺やインスタント味噌汁など、サルドビアでは食べられなさそうなものを片っ端からミチミチに詰め込んである。

おかげで1週間分の荷物を詰められるトランクを2つも持っていく羽目になったが、仮にも王族扱いになってる俺が持つわけではないので荷物運び担当の人に頑張ってもらおう。

「じゃあ、行こうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る