第14話
気づくとカレンダーは6月へ差し掛かろうとしており、季節はすっかり春から初夏へと切り替わっていた。
(まあこの生活に慣れるのに忙しくてあんまり日付意識してなかったのは俺の方だけど)
そんな事を考えているうちにカレンダーの夏の予定がどんどん埋まっていく。
サルドビアにおいて夏は社交の季節だ。
その為本国にいるサルドビア国王(アドルフの父親)の意向のもと、日本各地へ社交と外交のためパーティやイベント参加の予定が次々と詰め込まれていった。
皇室とのお茶会に始まり、日本政府首脳陣との貿易協定会議、国内外の企業との交流会、日本国内でのサルドビア王国PRイベント、大使館のあるつくば市内の視察や行政との関係構築、大使館に隣接する研究所との交流……ととにかく目まぐるしく予定が詰められている。
俺はその全てに同行するわけではない(俺はまだサルドビアという国を背負うには勉強不足なので)が、それでも配偶者として結構な数の仕事が詰め込まれている。
今日はサルドビア王国日本駐在外交使節団御一行で所在地となるつくば市内を視察することになっていた。
市役所の玄関に一歩降り立つと、そこには市役所職員の花道が作られそのど真ん中には歓迎の花束を抱えた爽やかな雰囲気の若手市長が立っている。
(だ、大歓迎だなぁ……)
まさかここまでとは。いや、王家の来訪だからそれくらいやるものなのかもしれない。
大輪の花束を受け取ったアドルフ王子はその精悍な
少しは見慣れてきたはずの俺ですらちょっとドキッとするほどに美しいので、たぶんこの中の何人かはこの優しい笑みにノックアウトされてると思う。イケメンってすごい。
市長室へと迎えられた後は市長とアドルフ王子による懇談が始まり、俺はアドルフの横でそれをニコニコして聞き流していた。ほぼ飾りであるが、日本人の伴侶がいるというだけでアドルフとサルドビアのイメージが良くなるだろうからここで文句は言うまい。
ちょっと暇そうにしてる俺を見かねたのか市長はつくばという街に対する印象などを俺にも訊ねてくれたので「とても住み良い街だと思います」と当たり障りのない事を返した。そもそも引っ越してきてから忙し過ぎてゆっくり外を回る時間なんてなかったので、たいしたことが言えないのだが……。
それでも市長との対談はつつがなく終わり、無事成功を収めることができたのであった。
*****
さて、市長との会談のあとはこの街が誇る様々な科学施設の見学となる。
JAXAに国立科学博物館の附属植物園、国土地理院に地質標本館や国土地理院と市内の有名な博物館を見学して回る。
俺やアドルフは学芸員さんの説明をへーというテンションで聞き流していたが、むしろ外交使節団のメンバーの中にいる魔法学者の皆様方の食いつきが半端無かったのでそれを程々に諌める方が大変だった。
そして恐ろしいことにまだつくば市内には今回行っていない博物館科学館がいくつも存在しており、この街の外にも数えきれないほどの科学館博物館が存在している。
この国が持つ知見はこれで全部じゃないのかと愕然としつつも、しばらく研究のため休ませてください!と言い出した部下たちを必死で諌める姿には謎の哀愁を感じざる得なかった。
(偉くなると部下の無茶を止めたりしないといけないから大変だよなぁ)
幸い今の俺の元で部下と呼べるのは邸宅の管理を担う執事・メイドたちだけなので、ここまで暴走することはあるまい。
そしてあんまり大騒ぎが続くので、見かねた俺がアドルフへの助け舟を出す。
「博物館科学館はまた別の機会に、と言うことにしましょう。この世界の知見は逃げませんし、科学館博物館だけでなく本も沢山ありますし、この街に住む専門家を我々のところへ招待して話を聞くことだって出来るんですから」
そう言われてしまえば、それもそうか……と一旦冷静になってくれて事態は収束した。
「ユキ、助かった」
「ああ言う時に助け船を出すのも夫の仕事ですから」
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