第3話
パーティー会場に響く音楽がふと止まり、主役の登場が告げられる。
大きな観音開きの扉から現れたのは純白のパーティドレスとパーティースーツを着た、金髪碧眼の男女だった。
男性の方はアドルフ王子だろう。金髪の隙間から後ろ向きに一対のツノが伸びた精悍な相貌に、程よく筋肉のついた長く美しい腕を隣の女性に貸し出した高身長(180センチ半ばくらいだろうか)の青年だ。白いスーツなんて下手すれば芸人かホストにでもなってしまいそうなのに、スラリとした手足やピンと伸びた背筋が彼を生まれながらの貴公子だと伝えてくる。
そうなると隣の小柄な女性はアリシア王女か。同じく頭のてっぺんから大きなツノが頭の丸みに沿って伸びているが、目元から下は薄いベールに覆われていてその顔立ちを伺い知ることは難しい。しかしドレスから覗くガラス細工のような繊細でしなやかな体つきは多くの男性を惹きつけるだろう。
2人の純白の衣装の胸元には赤い薔薇が一輪咲いているが、その薔薇はあくまで二人の引き立て役に過ぎない。
(あれが一国の王子と王女……)
気品という言葉があれほど似合う男女を俺は今まで見たことがない。
その美しさに俺と同じように胸元に薔薇を刺した男女は皆この美しい兄妹に目が釘付けになっており、俺もまたその美しい2人の姿に息を呑んだ。
(あんなに美男美女でしかも王族とか、もし俺が結婚出来たら嫉妬と羨望で殺されるんじゃないか?)
そんな馬鹿馬鹿しいことが脳裏をよぎるほどだった。
小さな壇上に登った2人からの挨拶を聞いた後、参加者全員が壇上からアドルフ王子とアリシア王女(と参加者)へ向けて30秒の簡単な自己紹介の時間となる。
「お次は何松幸也さま、お願い致します」
司会者に名前を呼ばれて2人の前に立つと、その切れ長の美しい碧眼が真っ直ぐにこちらを向いた。
「何松幸也《なにまつ・ゆきなり》と申します。歳は28歳、父は日本政府首相補佐官、母は専業主婦で、父の秘書を務める兄と農業系研究者の妹がおります。
私自身は父や兄と異なり一般企業に勤めるつまらない社会人でございますが、今年の2月までは社会人ラグビーチームに所属しておりました。ですので多少ラグビーで痛めた部分はございますが、それ以外の健康さと体力にはそれなりの自信があります。
何卒よろしくお願いします」
軽く頭を下げて目前のアドルフ王子とアリシア王女の目を見ると、王子の目に僅かな好奇の光があった気がした。
*****
G線上のアリアを響かせながらの食事と雑談の時間が始まる。
王子と王女は2人で会場内を回りながら参加者全員に声をかけており、暇な参加者同士で雑談する様子も見受けられる。
俺は異世界の珍しいパーティー料理を食べながら同じように参加していた同年代の女性達と時折雑談をし、父は結婚相手候補の付き添いで来た政府関係者達との話に夢中になっていた。
「にしても、ちょっと自己紹介して話しただけで結婚相手を決めるって相当だよなあ」
俺がそう呟くとワイン片手に休んでいた父が「向こうは結婚事情が全然違うからなあ」と言う。
「向こうの王侯貴族は政略結婚が当たり前だから、婚約者が他国にいると結婚式当日まで顔も知らないとかもザラらしい」
「それはキッツイなあ」
「で、政略結婚するにしても流石に当日まで知らん人と結婚は日本人の結婚観だと無理があるって説明して、両国の落としどころがこのパーティーをして選ぶって訳だ」
そう言われてしまうと父含む日本政府関係者の苦労が思い浮かぶ。
これから先もそうした両国の大きな文化の違いが王子と王女、そしてその結婚相手や日本政府の担当者を多いに苦しめる事となるだろう。
その苦労を乗り越えられるかは今日という日にかかっているのかもしれない。
「こんにちわ」「こんにちわ」
ふと二人分の響きが俺へと向けられる。
その響きの方向には、あの美しい王子と王女が立っていた。
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