第5話

第五話:兄弟って、めんどくさい(里音 side)


「ねえねえ、にいちゃん、ほんとに琴葉ちゃんのこと好きなんでしょ?」


「はぁ!? な、なんだよ急に!」


風呂上がり、髪をタオルで拭いていた里音の背中に、弟・玲音の声が飛んできた。

玲音は漫画を読みながらソファに寝転がっている。


「だってさ〜、なんかにいちゃん、最近楽しそうだし」


「……楽しそうって、なに」


「ふふん、図星〜」


弟にからかわれて顔が熱くなるなんて、情けない。

でも玲音の言葉は妙に鋭くて、反論できなかった。


「……あいつ、琴葉のこと好きなんだよな」


「え?」


「奈帆。……あいつ、好きって感情、わかってんのかな」


「……知ってるよ。奈帆、ちゃんと恋してる。にいちゃんが言ってたように、あいつまっすぐだし、素直でさ……俺も、好きなんだよ」


玲音がふいに、真面目な顔で言った。

それが妙に大人びて見えて、里音は言葉をなくした。


「俺もさ、ちゃんと気持ち伝えられるようになりたいんだ。にいちゃんみたいにさ」


「……いや、俺も全然だよ。今日なんか、好きなの? って聞いたのに……返事、もらえなかった」


「え、それって……」


「多分……俺じゃないんだよ、琴葉の好きな人」


ぽつりと言ったその言葉に、玲音が真顔になった。


「それ、ちゃんと聞いた? “俺じゃない”って、琴葉ちゃんが言ったの?」


「いや……でも、何も言わなかった。だから……」


「にいちゃん、そういうとこだよ」


「……は?」


「勝手に決めつけて諦めようとするの、よくない。琴葉ちゃんだって、きっといろんな気持ち抱えてるんだよ」


玲音の言葉に、思わず苦笑した。


「お前、いつからそんなこと言えるようになったんだよ……」


「ふふん、小三なめんなよ」


兄弟で顔を見合わせて笑った。

でも、心の中にはちゃんと、少しだけ勇気が灯っていた。


「……もう少し、がんばってみようかな」


「そうそう。で、にいちゃんが成功したら、俺も奈帆に告白する」


「プレッシャーかけんなよ……」


だけどその言葉に、ふたりとも少しだけ笑ってしまった。


——兄弟って、めんどくさいけど、悪くない。


夜のリビングに、笑い声が響いた。

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