第25話 戸惑いと嘲笑
ユリがあの教室で「私は天城くんの味方です」と言い放った日の夜。
俺は眠れなかった。
――どうして、あんなふうに言えるんだ。
裏切られた俺にとって、「信じてくれる」という言葉ほど重く、怖いものはない。
なのにユリは、周囲の視線を気にせず、堂々と宣言した。
その小さな体で、俺を庇うように立ち続けてくれた。
……嬉しかったのは確かだ。
けれど同時に、息苦しさも覚える。
俺には、彼女にそれだけの価値があるのだろうか。
守るどころか、何も返せないのに。
「……天城くん」
下校途中、彼女が隣を歩く。
夕暮れのオレンジ色の中、笑顔を浮かべながら。
「大丈夫です。私がいるから」
その声は優しく、けれどどこか張り詰めていた。
まるで「絶対に離さない」と自分に言い聞かせているみたいに。
俺は返事に詰まる。
ありがたい。でも、怖い。
心の奥でそんな矛盾が渦を巻く。
――そんな時だった。
道端のコンビニの前で、見慣れた顔を見つけた。
上條だった。
数人の取り巻きを連れている。
だが、その表情はどこか余裕を失っていた。
肩を並べていたアヤメの姿はなく、代わりに見知らぬ女子が必死に笑顔を作って話しかけている。
けれど、彼は苛立ったように手を振り払い、露骨に不機嫌さを見せていた。
「……やっぱりな」
横でユリが小さく呟いた。
彼女の瞳は鋭く、上條を射抜くように睨んでいる。
「強さを誇っても、ああやってすぐに周りを振り回す。
……天城くんとは、全然違う」
その声には冷ややかな響きがあった。
取り巻きが離れていき、上條は一人残されている。
嘲笑を浮かべる通行人もいて、かつての威勢は影も形もなかった。
ざまぁ……。
胸の奥でそんな言葉がよぎる。
でも、俺は素直に喜べなかった。
ただ虚しい。
上條がどう落ちようと、失ったものは戻らない。
俺の中の痛みが消えるわけでもない。
「天城くん」
ユリが俺の手を取る。
細く小さな指が、離さないように強く絡んでくる。
「もう、あんな人のことなんて見なくていい。
私だけを見てください」
――俺は、答えられなかった。
けれど、その言葉が胸の奥に残り続けた。
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