第24話 その隣は、私のものだった(アヤメ視点)
――私は見てしまった。
放課後の教室、ざわめきの中心にいる二人の姿を。
天城カイと、その隣に立つ氷川ユリ。
彼女は、あの幼い体で、堂々と全員の前に宣言していた。
「私は天城くんの味方です」
迷いのない声。
凛とした立ち姿。
その一言が、私の胸を抉った。
かつての私は、言えなかった。
“味方でいる”と、彼の前で言い切ることができなかった。
上條先輩の強引さに流され、憧れに呑まれ、カイを裏切った。
その弱さの代償が、いま目の前の光景だった。
ユリは続けて、カイに向かって微笑んだ。
小さな手を机の上に置き、彼の指先にそっと触れる。
まるで「誰にも渡さない」と刻印を押すみたいに。
「……だから、安心してください。天城くんを裏切る人なんて、もういません」
――違う。
それは私が言うべきだった言葉。
私が彼に与えるべきだった安心。
でも、もう遅い。
その役目はすべてユリに奪われてしまった。
ざわめく周囲の声が耳に突き刺さる。
「なにあの子、すげー……」
「春日さんとは大違いだな」
「本気で天城に惚れてんじゃね?」
そうだ。違う。
私はユリとは違う。
あの子は迷わずカイの隣を選んだ。
私は選べなかった。
けれど――私は気づいてしまった。
ユリの笑顔の奥に、かすかな影が差していることに。
柔らかに見えるその表情に、張り付いたような必死さが滲んでいた。
触れた指先は、決して離す気がないとでもいうように強く押しつけられている。
その瞬間、私は背筋がぞくりと冷えた。
あの子は、ただ優しいだけじゃない。
あれは――独占の証。
天城カイという存在を、完全に自分のものにしようとする意志。
恐ろしいほど真っ直ぐで、恐ろしいほど歪んでいる。
私は息を呑んだ。
あれが、私を超えてカイの隣を勝ち取った少女。
私が失った居場所を、彼女は狂気すれすれの強さで掴み取っている。
羨望と、後悔と、嫉妬。
それらがないまぜになって、胸を焼き尽くす。
「……カイ」
か細い声が漏れた。
でも、もう彼は振り向かない。
私の声なんて、届きもしない。
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