第46話 初日が終わって

「フラム!」


「ブモ〜〜」


 目の前のダンジョンボアーの群れを、炎の玉を当てては倒し続ける僕。その側ではリオンさんが飛び蹴りで、イノシシを蹴り倒す光景が見られる。


 あれから僕達はひたすら戦い、時々休むを繰り返していた。


 でもさっき会った金色のダンジョンボアー以降は、さっぱり出てくれない。

 ひたすら通常モンスターを倒し続けるという、作業化のような感じに陥ってしまう。


「出ない〜!どこ〜!?」


 体のダメージは特に無いが、ズシッと精神的な疲れが来たのか、リオンさんは戦闘が終わればその場に座り込み、全然レアモンに会えない事で文句を叫ぶ。


「もう6時……迫ってるよ」


 僕がスマホで時間を確認すると、時間は5時55分。6時までもう5分という所だ。


「はぁ〜、後半戦は0かぁ……」


 午前に1体倒して、勢いに乗ると思っていたリオンさん。がっくりと肩を落として、来た道を戻れば僕もそれに続く。


 僕もこれ勢い乗って行けるんじゃないかと思ったけど、そんな甘くは出来ていないもんだね。

 こうなると護君の結果がどうなっているか、彼は行けたのかな?


「来たか、お疲れ」


 今回も先に待ち合わせへ到着していた護君。気の所為か彼の顔は何処か晴れ晴れした感じだけど、まさか……?


「ひょっとして護君、レアを狩れたの?」


「ああ、1体だけだがレアフロアモンスターをな」


「ええ!? そっちにボスの方が出たんだ!?」


 僕の問いに護君が答えると、リオンさんが驚くと共に僕も驚いてしまう。


 レアモンをまた1体倒せれば良いなと考えてたのが、ボスの方を倒すという嬉しい誤算。この1体は大きいかもしれない。


「じゃあ早速収納しに行かないと!」


「あれから時間が経過したから、もう消滅してるはずだ」


 ダンジョンはどういう仕組みか知らないけど、倒したモンスターはそのまま長時間放置されれば、自動的に消滅する仕組みになっている。


 そうじゃなかったらダンジョンの中、結構カオスな事になってるはずだろうからね。


「じゃあ6時になったし、帰ろっか。立樹ちゃんを長い事待たせちゃってるからさ」


「ああ、すぐ引き上げよう」


 リオンさんはスマホで時間を確認、そこには午後6時と表示されてて引き上げる時間となっていた。


 他のチームはどれぐらいやってるんだろう?普通に徹夜で戦い続ける所とかいそうかも。



 ダンジョンの外へ出ると、朝と違って辺りは暗闇に包まれている。

 外の景色とかダンジョンの中からは見えないから、スマホの時計がかなり重宝されていた。


 とりあえずこの場所は覚えとこう、温泉あって良い所だったし、トラブルはまぁ……この場で思い出すと色々良くないから止めとこう。


「順位とかどうなってんだろ?」


「そこは伏せておくそうよ、そのチームを狙って色々妨害するとかの可能性を考えて、彼らを守るためと最後まで皆をハラハラさせる為にって」


 駅へ向かいながら僕はリオンさんと、大会順位について話す。

 今日の僕達が2体レアを狩れて他のチームがどうなってるか、全くの不明で結果発表まで教えてはくれない。


 つまり他のチームが2体以上楽々に狩ってる可能性があるなら、悪戦苦闘して1体も狩れてない可能性もあって、僕達にも優勝チャンスがある!というような希望を持てるんだ。



「畜生〜、狩れなかったか今日は……」


「やったなー、1体狩れたぜ♪」


 帰りの電車の中で、他のチームによる様々な声が聞けた。

 上手く行かなかったと悔しさを呟く人が居れば、1体倒す事が出来たラッキーなチームも居る。


 とりあえず今の周囲は討伐に苦戦してるみたいで、うちがレアボス含めた2体を狩ってる事は言わないでおこう。

 騒ぎになって目立つかもしれないし。



 馴染みの喫茶店、ダンディーンに3人揃って入ると店内には甘利と立樹ちゃんがゲームをして、遊んで待っていた。

 非常に微笑ましい光景で疲れが吹っ飛ぶ。


「うーん、料理人としては悔しいけどダンディーンのお料理って凄い美味しいです♪」


「それは嬉しいよ、なぁ母さんー?」


「ええ、リオンちゃんみたいな若い子に認められてるみたいで、嬉しくて若返りそうだわ♪」


 手早く美味しいパスタやピラフを仕上げ、高大さんが僕達に提供してくる。

 その料理を作ってるのが、ふくよかな女性シェフの神城早苗(かみしろ さなえ)さん。


 高大さんの奥さんで甘利の母、そして僕の叔母にあたる人だ。

 このダンディーンの料理は彼女が作っていて、僕もよくご馳走してもらう。カルボナーラとかカレーピラフとか、本当美味しいんだよなぁ。


「護君は和食派だっけ? ごめんなさいね、うちが主に洋食で」


「いえ、お気遣いなく。洋食も好きで早苗さんの料理は美味しくいただいてます」


「あらお上手! 私がもうちょっと若かったらデート申し込んでたのに〜」


 叔母さん、護君がいくらイケメンでも叔父さんの前で堂々と浮気発言は止めてね。甘利の教育に悪いから。

 幸い立樹ちゃんと絶品のサンドイッチを食べてるおかげで、今のは聞かれなかったみたいだけど。


「しかしRHDで優勝者には好きな武具をプレゼントか。そういうのが高騰してる中で、向こうは随分太っ腹な事をしてるね」


「ラビリントカンパニーって歴史浅いんだけど、成長が物凄いのよねぇ。ダンジョンっていう今の流行りを上手く取り入れたおかげでしょうけど」


 料理を食べ進めながら、僕達が今こういう大会に挑んでる事を話せば、高大叔父さんと早苗叔母さんの2人が、ラビリントカンパニーについて話す。


「今や世界進出もして、ダンジョン関連の会社として世界一も狙えるかもしれない……そんな位置まで来てるよね」


 元々凄い事は分かっていたけど、世界規模でそれも頂点に立つ可能性があるって、とんでもない会社だなぁ。


 そういう存在あるから冒険者という、新しい職業がこの現代で成り立ってるから、ありがたいけどね。僕も稼がせてもらってるし。



「明日は何処行こう……また奥多摩狙ってみようか?」


「うん、今の所はあそこが穴場みたいだし都内より良いと思う」


 晩御飯をたらふく食べて、若干睡魔が襲う中で僕達は明日に潜るダンジョンの事を相談。


「明日は早朝から行くか、それには早く帰って休まなければ。立樹、帰るぞ」


 早朝から行こうと決めた護君が、立樹ちゃんを連れて帰ろうとする。そこに呼び止める声があった。


「もう夜遅いよ護君、リオンちゃんも皆今日はうちに泊まってったら良いわ」


「それが良い! 3人揃ってすぐ出発出来るし、良いと思うよ?」


 早苗叔母さんが遅いからと、お泊りを提案した後に甘利もそれが良いと大賛成。まぁ立樹ちゃんと遊べる時間が増えるから、それが目当てかな?


「良いの? じゃあお世話になります♪」


「……感謝する」


 リオンさんと護君は共にお泊りの提案に賛成し、アンフィニアーミーは3人揃って、ダンディーンで一泊。


 正直リオンさんと泊まりでドキッとなったけど、彼女は甘利や立樹ちゃんと一緒の女子部屋で寝る。そりゃそうだ。


 たっぷり英気を養えば、明日の2日目の大会へ臨む。

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