第2話

 魔族の攻撃によって平和な町は一瞬にして阿鼻叫喚の様相を呈した。


 ブレスから逃れようと必死になって逃げ惑う人、子供を火の手から逃がそうと奮闘する人。

 魔族に一矢報いる為に壊れた剣や石などを投げる人。


 だが、そんなチンケな抵抗では返って魔族の的となってしまう。

 

「アアアアアッ!!!!?」

「せめてこの子だけでも!!」

「なんでこんなことに!!」


「……どうかな王様。お気に召したかな?」


 俺は王様を椅子に縛り付けると、そこから見える人が壊れていく様子を見せる。


 そうする事で王様の苦悶に満ちている、いい表情がみれると思った。


「……」


 しかし、俺が期待していた展開は起こらなかった。

 なぜなら、王様が無表情で涙を流して、王都を茫然と見つめながら「申し訳……ない」とNPCのように連呼するようになってしまったからだ。

 

 このままでは、こいつを殺した時に得られる記憶の欠けらが不完全なものになってしまう。

 そして、何より俺が面白くない。


 だから王様を半殺しにすることにした。


「グァァァッ!?」


 王様の両足を切った。

 

 王様の手首を切り落とした。


 王様の腹を切り裂いた。


「……ガ」


 俺の作戦が功を制したのか、自我を取り戻した王様が悲痛な顔をしながら首を横に振る。

 しかし、それでも王様の視線は依然として王都に向いていた。


 俺を見ようともしない視線がとても不愉快だった。


「はー、期待はずれだよ」


 もう猿どもの苦しむ姿をたくさん堪能できたし、王様への興味も無くなった。

 だから全てを終わらせて魔界に帰ろうと指示を出そうとしていた。

 

 だが、そこで思いのよらないことが起きた。

 

「お父さま!!」


 バルコニーのドアを勢いよく開かれ、中から赤色の可愛らしい少女が、ナイフを持ちながら俺にめがけて勢いよく走り出してきた。


 まだ人間が生き残っていたことに驚くが、こちらの邪魔をされても困る。だから、少女の後始末はヨルちゃんに任せよう。


「……死になさい」

「ッ??!」


 決死な覚悟で出てきたに違いないが、いささか相手が悪かった。

 ヨルちゃんの間合いに入った瞬間、骨が軋む鈍い音を鳴らしながら、少女の顔面に回し蹴りが炸裂する。


 相手は小学生っぽいのに、一切容赦せずに蹴り飛ばしているヨルちゃん、残酷ですー。


 バルコニーの扉を突き抜け、勢いよく王室の壁にぶつかる。

 少女が背にしている壁には血が滲む。一般人であれば、即死していてもおかしくないはずの勢いだった。

 

「……おとう、様を返せ…………!!」

「しつこい寄生虫ですね」


 ……それなのに彼女は生きていた。傭兵でも耐えられるか分からない一撃を喰らっても。

 

(これは将来が楽しみだね)


 だから今殺すのは勿体無いと思った。このまま成長すれば、いずれ魔王様をも倒せる存在になるかも知れない。

 そして、そんな力を身につけた人間を俺が殺したら、一体どれ程の記憶の欠けらを手に入れることができるのだろうか。

 

(もしかしたら、前世の記憶の全てを思い出せるかも知れない)


 ここで殺すのは勿体無い。


 そう結論づけると、俺は王様の口にとある秘伝のポーションを飲ませた。


 そして少女の方に、王様を死なない程度に軽く投げた。

 椅子が壊れる音と共に力なく転がっていく。


「お父様!!」


 回復した少女が勢いよく王様に近寄る。

 その必死さを堪能したいところだが、今は我慢だ。


 少女が王様に近寄ったことを確認すると、魔族たちに今すぐに撤収と指示を出す。

 本来であれば、人間たちは殲滅しなくてはならないが、今、生き残っている人は運が良かったとでも言っておこう。


 だが、当然魔族たちからは反対意見が……特にヨルちゃんなんかは、俺の命令を無視して、真っ先に少女を殺そうと拳を振り下ろそうとしている。


 こう言う、命令無視は俺がまだ四天王としての力を見せていないから起きる問題だが、解決しようと思ったことはこの1ヶ月の間、一度もなかった。


 けど、俺の楽しみを奪うとなったら話は別だ。


「ヨルちゃん、私、すぐに撤退って言ったよね?」

「……ゴフッ?」


 俺は拳を振り下ろそうとするヨルちゃんに気づかれないように近づき、彼女の胸元に右腕を突き刺した。


 ヨルちゃんはこの場で死ぬが、おそらく今の彼女は紅魔用紙で作られた身代わりなので問題ないはずだ。


(同族殺しは有罪だけどサボっている方がダメだよねー)


 ただ、貴重な紅魔用紙を破いてしまったのだ。それなら任務をサボってしまった本体に向けて伝言の一つや二つでも送っておいてやろう。


 俺は光の粒となって消えていく彼女の耳元に顔を近づけて、


「帰ったらお仕置きだよ」


 と一言呟いた。

 

 その言葉一つで、ヨルちゃんがびくりと体を揺らす。 


「……お帰りになられたら、少しだけ言い訳をさせてもらえないでしょうか」

「ま、いいよ」


 ヨルちゃんには従者として仕事をやって貰っているので、少しだけ優遇しておく。


 分身の夜ちゃんが消えたあと、他の魔族たちは既に撤収の体制になっていたらしく、外で俺たちを待っていると連絡が入った。


「さて、あとは帰るとしようかな」


 後ろで必死に回復魔法をかけている少女を嘲笑いながら背伸びする。

 少女の治癒の能力は物凄く、この短時間でほぼ全ての外傷を癒していた。


 王様も元通り、おめでとう!!


 ……でもせっかく直したのに、四天王第3席 ヴェルディア・ノクティスに貰った毒薬を王様に飲ましてしまった。


「……あ、あれ、な、なにこれ?」


 あーあ、毒の症状が出てしまったようだ。  

 王様の顔から紫色の塊が出現している。こうなったら肉体が溶けるまで毒の効果は消えないだろう。


「なにこれ、なにこれなにこれ!! なんで直らないのッ!!!!」


 ま、俺には関係のない話だったね。撤収撤収。

 ……最後の最後にいい顔が見れたよ。


 俺は満足げに王室を出ると、折りたたんでいた漆黒の翼を広げ、バルコニーから飛び立つ。


 実の父が溶ける、少女の悲痛な叫び声を聴きながら。


⭐︎⭐︎⭐︎

あとがき

 

ここまでみてくださりありがとうございます。


第2話では、主人公のクズな部分がみせれたらいいなーと思って書きましたが、まだまだ足りぬと思っています。 


 あとタグを一つ二つ入れ忘れてたので、のちに更新しておきます。


次回も2週間に2回か1回かのペースで更新します! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る