第5話 新しい命?

ある夜、大は小型マイクで録音した音声を聞いていた。

 それは、数日前に両親の家の壁の隙間に仕込んだ盗聴器からのもの。


 ザザッというノイズのあとに、父・拓馬の声が響く。


 「なぁ……俺ら、もう一人くらい作ってもいいんじゃねぇか?」

 「家も静かになったしよ。うまくやれば保育手当も出るだろ?」


 母・美沙がクツクツと笑う声が続いた。

 「また可愛い子だったら、ちゃんと育てようね。魁みたいにさ」


 「大? あれは失敗作だったな。何考えてんのか分かんなかったし」


 ——その瞬間、大の指が震えた。


 血が逆流するような感覚。

 胃の底からせり上がってくる何かが喉にまで達し、吐きそうになる。


 「失敗作?」


 それが、たった今、両親が俺につけた“名前”だった。


 あいつらは、魁の死も、自分たちが何をしてきたかも、まるで反省していない。

 むしろ、また一人、新しい“人形”を作る気でいる。


 大は録音を止めた。

 手が震えていた。でも、それを止めようとしなかった。


 「まだ……生ぬるかったんだな、俺は」


 心を壊すだけじゃ足りない。

 生活を奪うだけでも足りない。


 “命”をもてあそぶ奴らには、それ以上の“破壊”が必要だ。


 その夜、大は久しぶりに夢を見た。


 魁が風呂場で冷たくなっている夢だった。

 でも、夢の中の魁は、こちらを見て言った。


 「お前が俺の代わりに、生きるんだろ?」


 大はうなずいた。


 「いや……俺は、俺として、やるべきことをやる」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る