第12話『あまりにも緊張感のない狩り』

「たーっ!」

「やーっ!」


 あまりにも緊張感がない少女たちの声が、森中に響き渡る。


 俺はあの光景に少し慣れてきてしまった。

 しかしフローラは別で、かわいらしい見た目と声に反して行われている、モンスターたちの虐殺を前に困惑の表情を浮かべている。

 わかる、わかるぞ、フローラが抱いているその複雑な気持ち。


「あんな感じで、普通の人間ではないことを証明するのは簡単なんだ」

「【聖剣】と【魔剣】が人間の姿に変われる事実に懐疑的だったけど、信じるしかないわね」

「あんなかわいい見た目しているのに、近接戦でモンスターを『殴り飛ばし薙ぎ飛ばし蹴り飛ばし』だもんな」

「感覚のズレで、頭が理解することを拒んでいるもの」


 口を押えながらも目を背けない姿勢に感心すると同時に、頭が理解を拒む現象が理解できて何度も首を縦に振るしかない。


 そんなフローラの横顔は、以前よりも表情豊かになったような気がする。

 顔を合わせたら喧嘩をしていたわけではないが、訓練や戦う場面で顔を合わせることが多かったから険しい印象が強かった。


 ……いや、今思えばもっといろんな表情もしていたか。

 迷子と一緒に親を探し回ったときは、ちゃんと優しくもあったし表情も柔らかかったな。


「それで――【聖剣】の方は100歩譲るとして。【魔剣】は世間的にどうなるのかは想像できるでしょ」

「厄災を及ぼす、魔神が生んだ負の遺産――だろ。聖神の加護を受けし【聖剣】を扱う聖騎士が、魔神の加護を受け市【魔剣】も扱っているなんて笑えるよな」

「笑えないわよ」

「両方の神様から怒られそうだ。でも、セリナを見捨てることはできない」

「ねえ、さっきから気になっていたのだけど」


 見覚えのある、整った顔の眉間に皺を寄せる、考え込んでいるときの険しい表情が俺に向けられている。


「あなたの幼馴染だって教えてくれた子も、同じ名前じゃなかった?」

「そうなんだ。あそこで跳び回ってるのが、幼馴染のセリナなんだ」

「え」

「俺も今朝、報告するために村へ辿り着いた矢先に教えられた。正直、今の俺が置かれた状況じゃなければ、まだ混乱していたと思う」

「ん? 今朝報告に行ったって、もしかして今日が聖騎士任命式だったの?」

「うん」


 フローラは険悪な表情から一転、目を見開いてぱあっと明るくなった。


「おめでとう! 街に就いたらお祝いしましょっ」


 手を合わせて自分事のように、小さく跳ねたりして喜びを露にしてくれている。

 こういう素直に感情を露にするところが、何度も落ち込んだ俺が立ち直り続けられたんだっけな。

 自然と、こっちの表情も柔らかくなってしまう。


 でも今の俺は、その真っすぐな祝いの言葉を受け取ることができない。


「フローラ、ごめん」

「え、どうしたの?」

「俺、王国を追放されてしまったんだ。そして、自分が聖騎士だと公言しないようにも命令されている」

「え……【魔剣】のせいで……?」

「それもあるけど。俺は幼馴染でもあり、一緒に村で育ってきたセリナを見捨てることができなかった。だから俺の責任なんだ」


 身勝手だと罵られたり非難されようと、全て受け入れる覚悟だ。


「ずっと驚きっぱなしだけど。ふふっ」

「なんで笑うんだよ」

「苦楽を共にして、毎日一緒に居たわたしがわからないとでも思ったの?」

「だから何がだよ」

「どーせ、わたしも聖騎士を目指していたから罪悪感に苛まれているんでしょ。『罵倒されたり非難されても全部受け入れる』って思ってるんでしょ」

「……まあ」

「それは大きなお節介よ。あのまま訓練を続けていても、聖騎士に成ることはできなかったことぐらい、わたしが一番よくわかっている。だから、あのとき最後の希望を懸けて決闘を申し込んだのだから」


 フローラの顔は清々しいもので、未練など微塵も感じられない。

『大きなお節介』、か。

 そうだよな、覚悟を決めた彼女の選択を無下にしたのはただの思い上がりで、尊重できていなかったことを反省しなければならない。


 てっきり殴られるものだとばかり思っていたから、その覚悟も失礼に値するよな。


「いてっ」

「知り合ってからずっと、アレンらしいわね。ずっと」


 想像していたよりも、随分と痛くない拳で右腕を小突かれた。


「なんだよそれ」

「いっつも他人優先で、誰かのためにって行動するソレよ。最後の決闘だって、ギリギリまで勝ちを譲ろうとしていたでしょ」

「だってフローラは女の子だし」

「真剣勝負って言ったのにねぇ。それに、そこまでたったの1度たりとも女の子扱いされたことなかったけど?」

「それはなんというか、あれだよあれ」

「あれってなぁに?」

「ぐぬぬ……」


 ずっと兄弟みたいに育ってきた相手だぞ。

 稽古や訓練は全て平等だったし、相手をしてくれる人全員がフローラを女の子扱いなんてしていなかった。

 だから俺だってフローラを女の子として見たことなんて1度たりともなかった――あの決闘前に交わした言葉を聞くまでは。


「そんなことより、あの最後の言葉はどうなったんだよ」

「苦し紛れに反撃?」

「お前、決闘前に言ってただろ。『わたし、好きな人ができたの』って。あの決闘だって、その人に捧げる勝利だったわけだろ?」

「……」

「なんだよ急に。黙るなよ」


 あの言葉を聞いて、フローラも女の子なんだなって初めて認識したし、最後まで自分が勝っていいのか迷い続けたんだから。

 まだ告白ができていなかったとしても、無神経とは思うが、少し聞くことぐらいは許させるだろ。


「……もう2年も経つからねー。諦められたと思ってたんだけど、やっぱりダメだったみたい」

「そっか。誰が好きだったのかを聞くほど野暮じゃない。その恋、応援するよ。頑張れ」

「アレンに言われなくたって、努力するわよ。自分のことなんだから当然じゃない」

「それもそうだな」


 フローラからしたら、俺の発言は全て大きなお節介だな。

 15歳で独立して冒険者として生計を立てているのだから、見習わなくちゃいけないし、いろいろと教えてもらわなくちゃな。


「そろそろ野営の準備をしなくちゃだな」

「ねえ、あの2人って疲れ知らずなの?」

「どうだろう。俺も今日からだから、わからん」

「ずっとモンスターをおもちゃみたいに扱ってるわね」

「だな」


 さすがフローラ、もう慣れてきたのか。

 苦笑いしているものの、焦りの色は見えなくなっている。


 さあ、ここからは俺たちも動かないとな。


「おーい! メノウ、セリナ! 野営の準備をするぞー!」

「わかりました主様!」

「はーい」

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