第11話『人助けしたのに不機嫌だね?』
「それでフローラ、こんなところで何をしていたんだ」
木にもたれかかるフローラは、握っていた剣を地面に置き、左腕を押さえて顔を歪めている。
一本結いにされている緑色の髪は、あの日々を思い出す。
「わたしは今、冒険者をやっていてね。依頼でモンスター討伐に来ていたの」
「1人で大型討伐を?」
「いいえ。同行していた仲間が居たけど、勝ち目がないと判断して逃げてもらったの」
「勝ち目がないのに1人で立ち向かうって――相変わらずだな」
「何よ、知った気になって」
「知ってるだろ。ずっと隣で切磋琢磨し合っていたんだから」
「……」
フローラは、元々は王国騎士副団長。
俺が拾われて王都に辿り着いたその日に顔を合わせ、そこから毎日ずっと一緒に居た仲だった。
だが、とある日に決闘を申し込まれ――結果は俺が勝利し、フローラは王国騎士団を脱退して姿を消した。
「その鎧、苦しいだろ」
「うん……ちょっと手伝って」
手を差し出され、まずは小手から外す。
鎧と言っても、機動性重視の軽装備だから部分毎にスルっと取ることができる。
両腕の次は両足、胴体などはフローラが自分で外した。
「相変わらず、聖法は得意なんだな」
「ええ、まあ」
聖法の白い光によって、傷口を癒す姿は何度も見ていた。
一応は俺も扱えるが、かすり傷ぐらいしか治癒することができず、今のフローラみたいに打撲や出血を治そうとすると時間がかかりすぎてしまう。
「やっぱり、聖騎士に成ることができたのね」
「――あ、ああ」
「遠慮する必要はないわ。かつてはその頂に至るため決闘した仲じゃない」
「そういうことだったのか」
「一方的に勝負を挑んで、何も言わずに去ったのは自分でやったこととはいえ随分と卑怯だったと思っているわ。ごめんなさい」
本当に、当時は全てが急で流されるままに決闘して、話し合う時間もなくフローラは姿を消していた。
訓練の毎日だったということもあるが、理解が追い付かず、感情を整理する時間の余裕もなかった。
「薄々気が付いていたの。わたしでは、あなたには勝つことができないって。聖騎士に成ることはできないんだって」
「でもさ、俺よりも先に出世して聖騎士副団長という地位まで手に入れたのに、どうしてそれを捨てるような真似をしたんだ」
「違う。わたしは聖騎士副団長、という地位までしか上ることを許されなかったのよ」
「どういうこと……? 俺と肩を並べられるほどの実力があったじゃないか」
「そう、2年前のあなたに肩を並べることしかできなかったの。一緒に目指していたのだからわかるでしょ、わたしが成りたかったものを」
「……」
……そういうことか。
見極めるには早すぎるとは思うけど、フローラは成長の限界を感じてしまったんだ。
俺は無我夢中だったとはいえ進み続けた。
その結果として聖騎士に成ることはできたけど、肉体や精神を鍛え上げたとはいえ、【聖剣】から気に入られていた事実を知ってしまった。
であれば、もしもあのとき俺が負けていてもフローラは聖騎士に成ることはできなかった。
本当……後悔はしていないけど、現状も含めて素直に喜べないよ。
「その剣が【聖剣】なのね」
「ああ、そうだ」
フローラは、俺なんか比べ物にならないほどの正義感を持っていて、『常に誰かのために』と行動していた。
発現する意志の強さもあり、聖騎士に成るべきだったのは彼女だ、と何度も思ったことがある。
なんなら、俺が聖騎士に成る未来より、フローラが聖騎士として活躍する未来の姿の方が想像できていたしな。
「さすが、わたしに勝っただけはあるわね」
「――罪悪感に押し潰されそうだ」
「どうしたの?」
『メノウ、セリナ。人間の姿に変わってくれ』
『いいのですか主様』
『本当に大丈夫?』
『ああ。俺はフローラと同じ時間を共有した仲で、夢や目標も知っている。そして今だって、誰かのために行動しているんだ』
『わたくしは構いませんが……』
『もしかしたら、嫌われちゃったり軽蔑されちゃうかもよ? 二度と話せなくなっちゃうかもよ?』
『心配してくれてありがとう。もしもそうなっても、俺はフローラに誠意を示したい。時には背中を合わせて戦い、時には向き合って訓練し、時には隣を歩いたフローラに』
たとえ公言してはならない、と陛下からの命令だとしても、フローラだけには。
「主様は、その人のことが好きなのですか」
「昔話に花を咲かされちゃうと、妬けちゃうよね」
「え……?」
「混乱するだろうが、まずは聞いてほしい。こっちの白い方が【聖剣】エクスカリバー、名前はメノウ。黒い方が【魔剣】デュランダル、名前はセリナ」
左右で、それぞれの色の光を放ちながら人間の姿になった2人。
どこからともなく人間が現れたら、そりゃあ誰だって驚く。
でも説明を手っ取り早く済ませ、短時間で理解してもらいたい。
「え、え?」
「最悪、理解してもらわなくてもいい。だが、そろそろ動けるようになったと思うから移動しないか」
「立って歩けるようにはなったけど、さすがに混乱して正常な判断ができないわ」
そう言いつつも、前に垂れた緑色の髪を後ろに払いながら立ち上がってくれた。
こんなときに抱く感想ではないかもしれないけど、2年しか経っていないのに綺麗になったし身長も伸びたような気がする。
誰でも成長するから当たり前だけど、本当に綺麗になった。
「詳しいことは歩きながら説明する。こんなところで野宿は嫌だろ?」
「それもそうね」
「まだ体が痛むなら、いつでも言ってくれ。前みたいに背負ってやるから」
「やめてよね、そんな昔の話。お互いにいろいろ成長しているんだし、肩を貸すぐらいにしなさいよ」
「そ……それもそうだな」
な、なんだその恥ずかしそうに赤く染めた顔は。
たった2年で変わってしまったな、と思うと同時に、以前よりも女性らしくなった体に目線がいってしまい、すぐに納得してしまう。
そうだよな、昔みたいな関係性じゃないし、フローラが言っている通り互いに成長しているのだ。
気軽にそういった話題を出すのは無神経だったな。
「じゃ、じゃあ行こう」
「うん」
もう! 変な空気になっちゃったじゃん!
当時の感覚で接するつもりだったのに、これじゃフローラを女性として意識せざる負えないだろ!
あーもう! あー!
「ねえセリナ、あれどう思う?」
「今は判断できないかな」
「ぐぬぬ……」
「メノウこそ何か知らないの? アレンを見守ってきたのでしょ?」
「主様しか見ていなかったから……言われてみたら、居たような居なかったような」
「おーい2人共、行くぞー」
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