第4話 デレデレな義妹と弁当
――キーンコーンカーンコーン。
四時間目の授業が終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
母さんが作ってくれた弁当片手にスイのクラスへと向かおうとしたのだが、廊下からイノシシが猪突猛進でもしているのかと思うほどの足音が聞こえる。
山から降りてきたか?
「なんだこの音。予想はイノシシ、大穴でカモシカだな。誰の魂賭けようか」
俺が呟いたと同時に、教室の扉が勢いよく開かれる。
そして、スイが教室に入るや否や、真っすぐ俺に向かってダイブしてきた。
「お兄ちゃーーん‼」
「す、スイ⁉ 来んのめっちゃ早――へぶしッ‼」
「お兄ちゃん成分の不足でちぬかと思った~~」
「あ痛たた……スイ?」
スイは俺に抱きついたかと思えば、俺の首筋に顔を押し当てる。そして、スゥーーッと思い切り肺に空気を詰め始めた。
「なっ、す、スイ⁉ 何やってんだぁ‼」
「言ったじゃん、お兄ちゃん成分切れたって」
「俺体育あったから! 臭いから離れなさい‼」
「そうだったんだ。にへへ、お兄ちゃん体育あったんだ〜。今朝より濃くて、私はだ〜〜い好きだよ♡ ふぅ〜〜っ♡♡」
「〜〜ッ⁉」
ふぅっ、と生暖かい吐息が俺の耳を撫でる。
キャーーッ! エッチですわ〜〜! ってかこんなところクラスメイトにこれ以上見せつけたら、フルボッココースからコンクリ海放棄コースに移行しちまう!
「スイ! ちょっと来い‼」
「きゃっ⁉ お、お兄ちゃんったら大胆……♡」
スイの手を引き、教室を後にする。そして、誰もいない空き教室で息をひそめた。
これは授業開始ギリギリに教室に戻らないと殺られるな……。
「あのなぁスイ、教室であんなことしたらダメだろうが!」
「え~? でもお兄ちゃん喜んでたじゃん」
「どこがだよ‼」
「主に下半身」
「なッ⁉ なんでバレ……って、カマかけやがったか‼」
「正解っ。お兄ちゃん私で興奮してくれたんだ~♡」
「ぐ、健康的な男子高校生の生理的反応だ‼」
だって仕方ないじゃないか。エッチなASMRを友人に聞かせてもらってからというもの、ちょっとはまって耳が敏感になってたんだし!
義妹に興奮した? いやいや、違うはずだ。……すまん、ちょっと興奮した。
このままではそのまま妄想に引っ張られて落とされそうだ。そう感じ、無理やり話を変えることにした。
「そういえばスイ、お前授業中他事してたらしいな?」
「え⁉ な、なんでお兄ちゃんがそれを……」
「お前の担任の先生から詰め寄られたぞ。様子がおかしくなって勉強もできなくなってたって」
「ずっとお兄ちゃんのこと考えてた」
「なるほど。四六時中お前のことを考えてる俺とお揃っちだな」
「いぇ~い! お揃~~♪」
って違う! と、俺は叫ぶ。
「スイ、大丈夫か? 体調が悪かったりしないか? 心配なんだ……」
「……大丈夫だよお兄ちゃん。心配かけてごめんね」
「大丈夫そうならいいけど……。何かあったらすぐ俺に言うんだぞ? お兄ちゃんが絶対何とかするから」
「うん、いつもありがとうね、お兄ちゃん。それはそれとして……もぉ~~お兄ちゃん私のこと好きすぎ~~‼♡♡」
「べたべたくっつくのはまあ妥協するが、キスしようとするのはやめろ‼」
ナメクジの交尾のように俺に纏わりつき、隙あらば俺の唇を奪おうとしてくる。
もっとまともな表現があった気がするが、真っ先にそれが思いついてしまったよ。
「ほら、弁当食うぞ」
「は~い」
# # #
お兄ちゃんが適当な椅子に腰を掛け、私はもちろん隣にピタリと片を付けて座る。
久方ぶりの過度な彼女のスキンシップに心臓が跳ねたのか、お兄ちゃんの体温が上がったのが接触している肩から伝わる。
お兄ちゃんは勘づかれないように気を紛らわして弁当の蓋を開けてるけど、普通にバレバレなんですけど~~♡ あ~マジでかわいいお兄ちゃん大好きすぎて結婚RTAしたいな~~♡♡
「ねえお兄ちゃん、あーんしてよ~♡」
「いや、同じ具なんだから別に必要ないだろ」
「あぁん?」
「すげぇや。一気に恐喝じみたあーんに感じになった」
仕方ないな。そう言いながらお兄ちゃんは弁当箱に入っていた卵焼きを箸で掴み、私の口元へと近づけ、「はい」と言い食べる様に促す。
なめているのかな? そんなの食べるわけないじゃんね?? なんならこれからの人生お兄ちゃんのあーんでしか食べたくないんだが??? ……いや、「それは介護というんだぜー!」。そう誰かが叫んだ気がした。
「むっすぅー……! 『あーん』って言って食べさせて‼」
「めんどくさいし恥ずかしいんだよ……。はぁ、はい。あーん」
「あ~ん♡ ん~美味ぴ~~♡♡」
頬っぺたが落ちそうなくらいのリアクションをした。だって、あーんされただけで、いつも食べているはずなの倍以上美味しく感じたから!
隣でクスッと笑みをこぼす声が聞こえてきて、お兄ちゃんも自分の弁当を食べようとしたのだが……。
「じゃー次は私の番ね! はい、あ~ん♡」
「いや、別に必要な――もがっ⁉」
「美味しい?」
「……危ないから無理やり突っ込むのはやめれ。いつも通り美味しいが……」
いつも通りぃ⁉ 私のバフが乗ってないなんて……。
あーん道はまだまだ奥が深い。そう感じた。
けど、夢の一つが叶った! あーんし合うとか最高すぎなんですけど⁉ 彼氏彼女かっての! きゃーー! 最高すぎてまじむりぃ♡♡
「おっ、今日のデザートはイチゴか」
「にゅふふ。おにーちゃんよ」
「……なんだい妹よ」
くふふと不敵な笑みを浮かべて椅子から立ち上がる。そして、お兄ちゃんの膝の上に対面で座ってみると、わかりやすく動揺してアタフタしだす。
愛おしすぎて貪りたくなっちゃうけど、我慢我慢。
「そのイチゴも食べさせてほしいな~?」
「なぜ対面で俺の膝上に座るんだ」
「だって〜、私の理想のシチュエーションが好き好き言い合いながらの対面座――」
「はい! せーーのッ‼ あーーーーん‼」
私の声にかぶして、イチゴを摘まみながらズイっと差し出してきた。
もう少しからかって反応を楽しみたかったけど、この辺で許してあげよう。……とでも言うと思ったかまぬけめっ‼
「あむっ‼」
「~~ッ⁉ おま、お前何してんだ‼」
イチゴだけでなく、お兄ちゃんの指も一緒に食べてやった。
故障したロボットのようにあわただしくなり、ちゅぽんっ♡、と音を立てて私の口内から指を引っこ抜く。
「なんてことしてるんだスイ! こんな子に育てた覚えはありません!」
「素直に喜べよ兄者~。愛しのリトルシスターがこんなにもエロ可愛く育ったんだぜ~~?♡」
「お兄ちゃん涙が零れそうだよ」
「下半身から白い涙?」
「スイッ‼‼」
怒られちゃった。まあいいよ。それすらも私にはご褒美になるんだし♡
まあでも、ちょっとやりすぎちゃったからこのあたりでやめにしておこーっと。
その後は、お兄ちゃんの上に座りつつマーキングをし、しっかり堪能しておいた。
どうせ……もうすぐお別れなんだし。
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