第十話 [事情聴取]~白焉修道院篇~
「まず、一つ目の可能性は、「術師さん達が勝利し、逃げている」二つ目は、「戦う前に術師さん達が、龍惺君を逃がしてくれた」と言った所でしょうか」
珀爾と煌橙は、なるほどと思っていたが、三つ目の可能性も勘づいていた。そう
『龍惺諸共全員死亡』
信じたくなかったが、その考えも頭をよぎる。このような想像が現実にならないことを信じていたが、珀爾達は無意識の内に覚悟を固めていた。
その頃、大焚先生は望月さんと協会の最上階、五階に来ていた。寄宿舎は二階だ。エレベーターを降りて少し進むと、応接室があった。
「では、こちらへ」
望月さんに案内された通り大焚先生は部屋に入った。そこには、白髪の男が座っていた。
「はじめまして、大焚さんですね?私は
保科と名乗った男が、自己紹介をした。大焚先生も同じように自己紹介をした。
「はじめまして、大焚一茶です。白焉修道院の院長をしています。
互いに自己紹介を終え、本題に移った。
「今回のことについて、詳しく聞かせていただけますか?本来、この様な件は役所に行かれるのが普通だと思われるのですが、なぜ輪協に協力を申し出たのかなどもよろしければ」
なぜここに来たのかすらわかっていない保科を見て、大焚先生は少し引っかかった。『望月さんからでも、何かしら聞いていないのだろうか?』と。しかし、大焚先生は笑顔で返事をし、語り出した。
「昨日の夕方、6時頃でしょうか。十一歳の子達(珀爾達)が、外出から帰ってくる少し前でした。子供達も、自分たちの部屋で過ごし、私達大人は事務作業などをしていました。その時、急に轟音が響き渡ったのです。音の発信源は、野外修行場でもある裏庭でした。私が、いち早く裏庭に出るとそこには鬼がいました。それも、見た目からして紅鬼族でしょう。その鬼と私は戦う前に副院長に指示を出し、子供たちを逃がしました。子供達が逃げたかは定かではなかったのですが、鬼の方が攻撃を仕掛けてきたので戦闘を開始しました。全く歯が立たなかったわけではありませんが、とても強かったです。あの鬼の輪術は、恐らく髪の毛を炎に変え自由自在に操る術だと思います。私も、輪術を駆使して戦ったのですが、私の術は熱をあげたりする程度の術です。ですので、体術で何とかなる程度でした。しかし、いつまでたっても決着は着かずに、いよいよ修道院へ火が移りました。そこで、炎は一気に燃え広がり、同時に私の体力も着きました。すると、協会の術師。稲川さんと水谷さん。田中さんに山本さんが応援に来てくださいました。でも、私は朦朧とする意識の中、非難させていた子供達の中の一人が、稲川さん達の後をつけて修道院に入っていったのです。私は止められませんでした。そこで私の意識は途切れました。
次に、目が覚めた時には火が消えていて、日も上がっていました。私は、副院長に任せて子供たちと一緒に協会に行くよう促し、私は一人で燃えた修道院の中を探索しました。そこには、応援に来た術師さん達はみな、ナイフが刺さった状態で亡くなっていました。しかし、あとをつけて行った子の遺体はありませんでした。逃げたのでしょうか?それとも……。っいえ、なんでもないです!遺体がなくて安心しましたよ。私が話せることは以上です。それと、私がここを頼ったのは、私が…っ、ぃぇ、ここの術師の方も被害にあったので報告も兼ねてと思いましてね」
大焚先生は話終わり、保科はありがとうございましたとだけ返事だけをし、特に話すことも無く部屋を出ていった。そして、事情聴取は終わった。
大焚先生は、過去の栄光に浸りたくなかったのだろうか?恥ずかしいことではないのに…
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