第九話 [協会にて]~白焉修道院篇~

「えっ!?院長さんって大焚さんだったんですか!?」

 突然、受け付けの人が叫んだので、大焚先生以外のその場にいた子供達と氷室先生は驚いた。

「お久しぶりです。望月もちづきさん。私が協会で術師育成教官をしていた時以来でしょうか」

 突然明かされた大焚先生の過去。皆はまたもや驚かされた。

「はい、そうですね。大焚さんが辞められた後でも輪術の才能がなく、術師は諦め、協会の受け付けの仕事をさせてもらっているんです。」

 大焚先生は、現在大変なことになっているにも関わらず、ニコニコと優しい笑みを浮かべ話を聞いていた。夢が叶わなくても、どんな形でも、教え子が出世して、仕事をしてることに、感動していた。

「それに、大焚さん。今は修道院の院長先生しているんですね。今回は鬼の襲撃…大変でしたね。協会も、大焚さんには沢山お世話になってましたし、一応応援に行ってしまった術師のこともありますし…できる限りの事は手を打ちます。あと、個人的なんですが……」

 望月と呼ばれていた受け付けの人は大焚先生の顔を見るなり態度が変わったが、『ありがたい』と、氷室先生は密かに思っていた。

 望月さんが遠慮気味に言いかけたことを聞いて、大焚先生は

「考えときますね」

 と、返事をし、子供達と氷室先生を連れて、望月さんに案内してもらった。

「ここから、四部屋を子供達用。ここが、大焚さんと、…。」

「氷室です……」

「…っすみません。氷室さん用の部屋になります。大焚さんは同行お願いします。この件について、事情聴取があるらしいので。どうか協力を。私達協会が、手助けするためにも、お願いします。」

 大焚先生は、望月さんの後を着いていき、エレベーターに乗って上の階へと向かっていった。

 氷室先生は、時々子供達の部屋の様子を覗きに行ったりして時間を潰していた。

 珀爾と煌橙は、知らない年上の子二人と同じ部屋になって、少し緊張していた。それよりも、龍惺が心配だった。早く龍惺の安否の確認がしたくてたまらない珀爾と、不安でいっぱいの煌橙。すると、氷室先生が部屋を見回りに来たついでに、珀爾と煌橙を呼んだ。

「ごめんね珀爾くん、煌橙くん。少しお話いいかな?先生の部屋に来てくれる?」

 呼ばれた二人は先生の部屋へ行った。珀爾と煌橙は話の内容を予想した。

 『龍惺の事だ。違いない』

 二人はそう思いながら一瞬で先生の部屋に着いた。

 今借りている部屋は、術師達の寄宿舎である。そのため、二段ベットが部屋の奥の両端にあって、手前に椅子と机が人数分用意されているのと、トイレがある。その程度の部屋だ。

 珀爾達は、部屋に入り椅子に座らせてもらい、氷室先生が話を切り出した。

「龍惺君のことについてなんだけど、二人も知ってるよね。修道院に戻って来たこと。先生が知ってることは全部話しておくね。

 龍惺君は、応援に来てくれた術師さんたちの後をつけて、修道院に戻ってきたの。そこで、先生達が止める間もなく、まだ中に鬼がいるかもしれない修道院の中へ、炎を掻い潜って入っていった。でも、先生が目を覚ました時には、もう火も消えていたし、物音もなかった。だから鬼との戦闘も終わっていたと思う。でも、その場に龍惺君がいなかったのは、恐らく三つ…いやっ、二つの可能性があると思うの」

 珀爾と煌橙は真剣にその話を聞いて龍惺のことについて必死に考えていた。

 安全でいると信じながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る