〔Side:Juli〕10. ドロップキス
去年の6月を思い出すと、この時期はあまり会社の方も忙しくない。
5月にあれほど地獄のようなスケジュールで動いていた案件なども、6月には鈍化する。
そのかわり、ということでもないのだけれど、プライベートの方で予定があって有給を取る社員も増えている。一年のうちに一番有給を取りやすい時期かもしれない。
かくいう私も、そのうちの1人になる。
3通の招待状。
QRで参加/不参加を送れるようになっていて、いずれも大学時代の同級生。
特に仲の良かったグループというわけではなかったけれど、その3人のことはよく知ってる。
きっと他の2人も式に呼ばれて参加するからと、久しぶりに連絡を取り合った。
結局みんな全部の式に参加するなら、一緒のホテルの部屋を取ろうという話でまとまった。
ほかの2人にも持ち物を聞いたり聞かれたり、ドレスの色で意見し合ったりと頻繁なやり取りもあって、なかなか忙しい日々がすぎた。
リビングのカレンダーには早くから予定を書き入れておいた。
仕事の合間にしていた準備が後手に後手になっていたから、日程が近づいてきて焦って準備を進めていたのもあって、シノンに直接伝えていないことに気がついたのが今日だった。若干の罪悪感。
「シノン、今週末からしばらく留守にするわね。知り合いの結婚式に呼ばれて、アメリカに2週間ほど行ってくることになったの。最初はハワイで、あとは東海岸のバージニアとフロリダにそれぞれ4、5泊くらい」
鳩が豆鉄砲を受けた時の顔つきってこうなのかしら。
シノンはすごく驚いているようだった。
それでもやっぱり興味のあるものにはとことん意欲的で、ハワイのコーヒーの話をしたら飛びついてくれた。
その流れで、先日のGPTさんに教わったことを活かす時がやってきた。
「シノンがバリスタの勉強頑張ってるの、私も知ってる。だから、少しでも応援したいと思ってるんだよ。それとも……余計なお世話だったかしら?」
最後はちょっと不安があって押し付けがましくなってしまったけれど、気持ちを伝えるのは大事、だよね?
「余計なお世話なんかじゃないよ。ありがとう」
シノンの顔がふっと近づいて、私のおでこをシノンの手がかけわけたところに――
チュッ
軽い音が額から直接頭の中に投下される。
そのくすぐったさに思わず声が漏れてしまう。
「ひゃわっ!?」
「お代がわりには程遠いけど、感謝の先払い……ごめん、嫌だった?」
「……〜! 嫌じゃないです、むしろもっとください」
「え、いや、これ以上はしないよ?」
「わかりました」
「?」
「今の感触を忘れないようにベッドに行きたいからもう寝るね、おやすみシノン」
「あ、う、うん? おやすみ、ジュリ」
こんな、こんなこと……してくれるんだ……?
心臓ギュンとなった。そしてバクバクが鳴り止まない。
というか今のは何?
してくれた後の照れくさそうな顔もやばいんですけど?
もう惚れさせる気満々じゃない?
いいの? 本気になりすぎちゃうよ?
止まらなくなったら責任とってもらえるのかな?
むしろ私がとるべき?
はぁ……もう……明後日からしばらく会えなくなるのに……
こんなの行きたくなくなっちゃうやつ……
あっちで、もしシノンのこと考えたら……寂しくなっちゃうよ……今もう寂しいし……
でも、今リビングに戻ったら……私何するか分かんない……
シノンに嫌われたくない……抑えなきゃいけないのに……
あついよ…………なにもかも全部あつい…………たすけてー…………
鏡に映る自分の顔。にやけがとまらない。どうしても口角が下がってくれない。
ていうか赤。
ひー、たすけてー。
頬に両手を当てると、体感温度が違いすぎてあつさを感じる。
今までシノンから、こういうことをしてくれたことがなかったから、嬉しすぎてキュンが止まらない。もう死ねる。今の私が死んだとしたら、きっと死因はシノンによる急性心筋梗塞。それ以外に説明がつかない。幸せすぎるー
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