救済の権利・外伝 照真律央

はな

プロローグ

 ――人は、生まれつき平等じゃない。

 そんなこと、子どもの頃の僕は知らなかった。


 父さんと母さんは「灯火の環」という小さな団体をやっていた。犯罪者の更生を助ける、いわゆるボランティアだ。父さんはいつも言っていた。


「人は変われる。心に寄り添えば、どんな人間だってやり直せるんだ」


 母さんはそれに優しくうなずいて、僕の頭を撫でた。

 僕は、そんな二人を心から尊敬していた。だから、灯火の環の活動にもついていっては、笑顔で迎え入れられる人たちを見て、素直に「良いことだ」と信じていた。


 ……あの日までは。


 夜。活動を終えて帰った家で、僕は信じられない光景を見た。

 保護していた男が、父さんと母さんを――。

 あまりにあっけなく、あまりに醜く。


 床に倒れた二人に駆け寄ろうとした僕の足は、震えて動かなかった。

 その瞬間、心に刻まれたのはただひとつ。


「優しい人が、どうして奪われなきゃならないんだ」


 灯火の環は、その事件を境に分裂した。

 「人は変われる」と言い続ける者たちと、「犯罪者は二度と変わらない」と叫ぶ者たち。

 そのどちらにも、僕は心からうなずけなかった。


 ――違う。

 問題は、人の心が変わるかどうかなんて、あやふやなことじゃない。


 僕は思った。

 数値で、線を引けばいい。

 正しい人と、間違った人。守るべき人と、切り捨てるべき人。

 そうすれば、父さんと母さんみたいな優しい人が犠牲になることは、二度とない。


 そうだろう? そうに決まってる。


 そのときの僕はまだ知らなかった。

 自分の願いが、やがて国を変え、世界を変えてしまうことを――。

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