救済の権利・外伝 照真律央
はな
プロローグ
――人は、生まれつき平等じゃない。
そんなこと、子どもの頃の僕は知らなかった。
父さんと母さんは「灯火の環」という小さな団体をやっていた。犯罪者の更生を助ける、いわゆるボランティアだ。父さんはいつも言っていた。
「人は変われる。心に寄り添えば、どんな人間だってやり直せるんだ」
母さんはそれに優しくうなずいて、僕の頭を撫でた。
僕は、そんな二人を心から尊敬していた。だから、灯火の環の活動にもついていっては、笑顔で迎え入れられる人たちを見て、素直に「良いことだ」と信じていた。
……あの日までは。
夜。活動を終えて帰った家で、僕は信じられない光景を見た。
保護していた男が、父さんと母さんを――。
あまりにあっけなく、あまりに醜く。
床に倒れた二人に駆け寄ろうとした僕の足は、震えて動かなかった。
その瞬間、心に刻まれたのはただひとつ。
「優しい人が、どうして奪われなきゃならないんだ」
灯火の環は、その事件を境に分裂した。
「人は変われる」と言い続ける者たちと、「犯罪者は二度と変わらない」と叫ぶ者たち。
そのどちらにも、僕は心からうなずけなかった。
――違う。
問題は、人の心が変わるかどうかなんて、あやふやなことじゃない。
僕は思った。
数値で、線を引けばいい。
正しい人と、間違った人。守るべき人と、切り捨てるべき人。
そうすれば、父さんと母さんみたいな優しい人が犠牲になることは、二度とない。
そうだろう? そうに決まってる。
そのときの僕はまだ知らなかった。
自分の願いが、やがて国を変え、世界を変えてしまうことを――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます