第55話 分かれる道

 あの想像から、数日後。

 そろそろ辺境に帰ろうと、準備をしていた時。

 突然目の前に現れたのは、リカルドだった。


「……エリオット」

「リカルド?」


 リカルドの表情は何処かざわついているようにも見えたのは気のせいだろうか?

 俺は首を傾げながら彼の名を呼ぶ。

 するとリカルドが、口を開く。

 その声は、震えていた。


「俺は……お前を、勇者パーティーに迎え入れたい。もう一度、俺たちの仲間になってほしい」


 その言葉に、俺は一瞬、息をのんだ。

 何を言いだすんだと思った俺だったが、彼の瞳には真剣な光が宿っていた。

 それは、俺を嘲笑していたあの日のリカルドとは、

 まるで違う光だった。


「お前は俺たちの歯車を、再び動かしてくれた。お前がいなければ、俺たちは数日前の王都の混乱を鎮めることはできなかっただろう。俺は、お前の力を必要としている……もう一度、俺たちの背中を、お前の力で守ってほしい」


 リカルドは、俺に手を差し出す。

 その手は、かつて俺を追い出した手だった。

 だが、今のその手は嘗てのような冷たさではなく、温かい光を放っているように見える。

 俺は、その手を見る。そして、ゆっくりと首を横に振った。


「……ありがとう、リカルド。でも、その手は取れない」


 リカルドの表情が、驚きに変わる。マリーベルが顔を上げ、ガレスも、信じられないという顔で俺を見つめた。


「どうしてだ? お前は……」

「魔王討伐は、あんたたちの仕事だろう?」


 俺は、リカルドの言葉を遮るようにはっきりと告げた。

vその言葉には、迷いも、後悔も、一切なかった。


「確かに俺たちは、この場所で、始まってる。俺たちは、自分の足で、自分の居場所を探す。誰かに与えられた使命を追うのは、もう嫌なんだ……俺は、シンシアと辺境の町で自分の意志でその道を進む」


 そう言って、俺はシンシアの方を見る。

 彼女は静かにうなずき、私の隣に立った。


「……その通りよ」


 シンシアが、口を開く。

 その声には、迷いも、不安も、一切なかった。


「もう、誰かに与えられた使命を追うのは嫌なの。自分の足で自分の居場所を探したい。それが辺境で、私が学んだことだから」


 リカルドは、何も言わずに俺たちを見つめていた。

 その瞳には、落胆と、そして、どこか納得したような光が宿っていた。

 ガレスが、静かに口を開く。


「……わかった。お前たちの決意は、本物だ。俺たちはお前たちの力を、軽んじていた。その罰を俺たちは受けなければならない」


 マリーベルは涙を流しながら、シンシアに駆け寄った。


「エリオット……お元気で。あなたの幸せを、心から祈っています」

「うん、ありがとうマリーベル」

「……シンシア様、エリオットをお願いいたします」

「もちろん、任せておいて」


 二人の間は簡単にそのように会話をした後、お互い握手をする。

 リカルドは、俺に、もう一度、手を差し出す。


 その手は、俺を追放した手であり、俺を勇者パーティーに誘った手であり、そして今、別れを告げる手だった。


「……頑張れよ、応援している」


 俺は、リカルドの手をしっかりと握った。

 彼の瞳には、涙が滲んでいた。


「お前が居なくなるのは寂しいが……追放をしたのは俺だしな。これからは別々の道を歩むが、次に会う時まで絶対に死ぬなよ、エリオット」

「当たり前だ……お前も頑張れ、そして絶対に死ぬなよリカルド」


 俺はしっかりとリカルドの手を握りしめた後、笑った。


 俺たちは、再び、別々の道を歩み始める。

 だが、その道は決して孤独なものではない。

 互いの存在を、互いの物語を、心の中で、誇りに思い続ける。


 それが、俺たちの、新しい関係だった。

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