第11話
第9話
「ハナムケ 一輪の花へ」
「さーて、海鮮丼も食ったし、街散策して、どっか、風呂でも入って行こうぜ、優!」
アドニスは、相変わらず、元気に鼻唄を歌いながら、キョロキョロと色んな店を見ていた。
「釧路って言えば、やっぱり、新鮮な海鮮だよな〜、あ! 何か食べ歩きのアーケード街みたいのあるぜ優? ちょっと、あれ、美味しそうだな!」
そう言い、蒼い綺麗な瞳をキラキラさせて、彼は何本かの串焼きを買ってきた。
イカ、タコ、魚、、芋餅、様々な食材、俺は、まだ腹一杯だったので、見ているだけだったが、彼が本当に美味しそうに、嬉しそうに食べる姿を見て、何だか、こちらまで、嬉しい気持ちになった。
「よーし、腹も満たしたし、あそこ寄ってくか!」
「あそこ??」
俺がそう聞くと、
「へへへ! 良い物、見せてやるってばよ、優!」
良い物??
何だろう、、
俺がポケッとしていると、
「ほら、優、まず、これ、また乗るぞ!」
俺達二人は、空飛ぶホウキに再び乗った。
「屈斜路湖行くぜ、優! さぁ、レッツゴー!」
アドニスに続き、俺達は阿寒国立公園でも、最大の大きさを誇る湖、屈斜路湖へと向かった。
グングンと進み、さっき、散策した釧路の街が、あっという間に遠ざかっていく。
「さぁ、着いたぜ、優!」
「ワァオ!」
俺は思わず声を上げた。
何て美しい景色か、流石は北海道。
全てが雄大だ。
「よし、んじゃ、あそこの中島に降りるぜ!」
屈斜路湖には、湖面に小さな中島があり、俺達は、島内を散策した。
「優、前に話していた、クッシーって未確認生物の、首長竜の話、覚えてるか?」
「あ、うん。」
俺が答えると、アドニスは、ニヤリと笑い、「よーし、んじゃあ、呼ぶぜ?」
呼ぶ!?
俺は彼の言葉にポカンとしていると、アドニスは、ピー!! と大きな口笛を吹いた。
すると、、何と!
ザバーンと、クジラの様なサイズの、本物の、そう、本物の、、恐竜が海から顔を出した!
「ウワッ!! ちょっとアドニス!」
と、古代時代から遡っても、恐らく全人類が、現実では絶対に見た事のない、図鑑でしか見た事のなかった、本物の首長竜、クッシーに俺は、あまりに驚き、尻もちをついた。
「ヤホー! ブルー!」
「キュー!」
声を出し、アドニスに顔を擦り付ける、幻獣クッシー。
彼の金髪が水しぶきに濡れ、キラキラとしている。そして、その美しい蒼い瞳は何と慈愛に満ちてる事か、ブルーは嬉しそうに、何度も甘え超えを出している。
アドニスって凄いなぁ、、人間には勿論、、獅志丸やブルー、動物とさえも、まるで意思疎通が出来る様な能力や魅力、愛に満ち溢れている。
「キューン!」
おや、ブルーは俺がアドニスの親友だと分かるのか、中島の陸に、まるで、幼い赤子の様にヨチヨチと両ヒレを使って、擦り寄ってきた。
か、可愛い!
俺の中で、慈悲の心が生まれる様に、まるで、子供が出来た様な、そんな気持ちになれた。
「ブルー、宜しくね。」
俺は、彼の頭をよしよしと撫でた。
「優、見えるか、ブルーの身体の、数々の傷跡?」
あ、確かに所々に皮膚の色が違う所に見える。。
これらは、、?
と俺が尋ねると、アドニスは、少しうつむいて、口を開いた。
「かつて、俺も獅志丸やブルーも、シルバに飼われていたんだ、、皆、様々な実験を課せられた。特に、ミオスタチン異常の俺を、シルバはどうしても、物にしたいと、利用したいと執拗に追いかけてきたよ、、」
そう言えば、あの初陣の日、シルバの襲来の時に、奴は虎の身体に、羽があり、蛇は尻尾と異形な、モンスターに乗ってやってきたのを思い出した。
「奴は、様々な動物や、解剖学等、あらゆる分野において、天才的だったんだ。そして、生物の命をもてあそぶかの様に、様々な動物を作り出した。獅志丸やブルーも、その一部だ。俺も実験され、別の生き物にされる、その前日だった。じっちゃん(長老)や騎士団の皆が助けてくれたんだ。今じゃあ、本当に感謝してる。だから、黄金の騎士団の皆といる時は、おいら、まるで夢を見てるんじゃあないかって位に幸せなんだ、ハハハ! おっと、つい話し過ぎちまったぜ、すまねぇ、いや、聞いてくれて、ありがとうな、優!」
俺はギュッとアドニスの、強く大きな身体を抱き締めた。
どこか、苦しげなのが直ぐに分かった。
「ありがとうな、優。何だか照れくさいってばよ、ワハハハ!」
一瞬、アドニスの蒼い眼が、潤んでいる様に見えた。。
「さてと、、したら、ブルー、また来るからな、元気そうで良かったぜ!」
時間はあっという間に過ぎ、夕方になっていた。
アドニスとブルーのシルエットが、丁度水面にかかった夕陽と重なり、まるで、1枚の絵画を見ている様な、映画のワンシーンを観ている様な、そんな幻想的な感覚を覚えた。
「キュー!」
やがて、俺達が去ろうとする時に、ブルーは、まるで、またね、ありがとう! と言う様に、水面から、顔を出して、ヒレを振った。
そして、いつの間に、持ってきたのか、何やら、アドニスは一振りの蒼い剣に、強く念を掛ける様に、ギュッと握り、それを、ブルーは口に咥え、水の中に消えて行った。。
「可愛かったべ!?優、ブルーの奴、ハハハ!」
「うん! とっても! ちなみに、あの刀は?アドニスの??」
「あぁ、まぁ、その話は、、、また、今度にするべ!
よーし! んじゃあ、阿寒の温泉街行って、風呂でも入って、飯食って帰るべ、優!」
こうして、おとぎ話の様な半日旅行を終え、俺達は、阿寒に戻ってきた。
阿寒の温泉街は、アイヌのお土産屋さん等、色んな名所があり、人々で、賑わっている。
すっかり、陽の暮れた空には薄っすらと神秘的に、月が光っているのが見える。
俺は、お土産屋で、木で出来た3個の青色のネックレスを買った。
一つは自分に、そして、一つはアドニスに渡した。
もう一つは、、、そうだ、あの人にあげよう!と考えた。
さてさて、温泉に到着すると、日帰りチケットを2枚、買い、俺達は浴槽に向かおうとした。。
すると、「お!シーフドフライ定食、980円、カツ丼大盛り、1100円、、ふんふん、良いじゃんか、美味そ〜!」
俺は見慣れた光景に、心が癒やされ、気付けば、笑っていた。
「お!ワリぃ、ワリぃ! 優! んじゃあ、風呂入るか!」
そして、更衣室に入ると、その場の皆がこちらを向いているのが分かった。
(す、凄い、、)
アドニスが、来ていたTシャツを脱ぐと上半身には、数々の傷跡があった。
だが、それよりも、更に周りが驚いたのは、その鋼鉄の様な隆起した筋肉だ。
確かに、見た目では、70kg位にしか見えないが、何か、テレビで見る同体格のアスリートや格闘家よりも、更に強い、と老若男女、誰が見ても分かる、そんな筋肉を纏っていた。
きっと、どんな猛獣でも彼には敵わないだろう、、とさえ思った。
「ハハハ!優ー、やっぱり、体重計エラーだってばよ!」
そりゃあそうだ、日本の体重計で、150kg以上、計れるのなんて、殆どないだろう。。
皆の視線を浴びながら、彼は鼻唄を歌いながら、ワシャワシャと髪の毛を洗い、身体や顔をパパパッと洗い、そして、俺の背中も洗ってくれた。
「優ー! もっと飯食べろ! 強くなれるぜ!」
「うん、そうだね。。」
そして、温かい湯船に使って俺達は色んな事を語り合った。 鬼神を倒したら、その後の互いの歩む道について等、、
「死ぬんじゃねぇぞ、優。。」
「うん。アドニス、絶対に鬼神を倒して、そして、共に生き延びよう、約束だよ、アドニス!」
そう言い、俺達は小指を出し約束をした。
やがて、風呂から上がり、待ってました!とばかりに、アドニスはレストランで食券を爆買いした。
「んじゃあ、生ビール8杯に、シーフドフライ定食、カツ丼特盛、海鮮ラーメン大盛り、それぞれ、3つずつ頂戴な!」
ギョッとした様子な、受付のオバちゃんに、僕は、何だかすみませんと言った感じにペコリとした。
待つ事、1時間で、アドニスの山程の馳走が机に並んだ。 ちなみに、俺は、カツカレーを一人前頼んだ。。
「プハー!! 最高!!」
アドニスは、目の前の生ジョッキビールを3杯、あっという間に飲み、続いて、カツ丼を3杯、ラーメン大盛りを2杯、スープまで綺麗に飲み干した。
ザワザワ、周りの客達が、え!?っと感じに驚いていた。
「ダハハハ! うめぇな〜!優!」
やがて、アドニスが何食も食べ終えた後、俺もカツカレーを食べ終えた。
まだ、食べてる彼には、毎度の事ながら、驚かされる。
「ゲフー!食った〜! さて、優、戻るべ!」
温泉を出て、騎士団の隠れ家に帰る途中、俺達は、春の夜風にあたり、心地良く涼んでいた。
「あ、優、ワリぃ、おいら、トイレ行ってくるわ! 食い過ぎたぜ! 大きい方してくるわ! ワハハハ! 」
アドニスを待っている間、俺は澄んだ夜空を見ていた。
タイムマシーンを使い、こっちの世界に来て、色んな事があったな〜、、
麻衣ちゃん、岩瀬、、そして、騎士団の仲間達、、
そんな風に想いにふけってる時だった。
何だか、裏路地から、女性の悲鳴と、男の荒い大声が聞こえ、俺は何だか、本能的に、その場へと走って行った。
「カ、カリンパさん、、」
髪の毛を引っ張られたのか、美しい黒髪が乱れ、そして、涙を流していた。
「チッ!何だ、ガキじゃねぇか、、」
そこには、力士崩れの様な二人の男達がいた。
「おい、こっちは大人の、やり取りで忙しいんだよ、早く帰んな!」
と言う相手に俺は、ただ一言、「消えろ。クズ共。」と、自分でも知らない凶暴な、もう一人の自分が顔を出した様に、相手を睨んだ。
今でも思う。
この時、帯刀をしていなくて本当に良かったと。。
それ程に、俺は怒っていた。
「何だと、ガキ!」
男の1人が俺の胸ぐらを掴んできた。
「痛い目に会う前に消えろ、ガキめ!」
俺は、この世界に来て、何度も命のやり取りを見てきたので、不思議と恐怖は全く感じなかった。
そして、その時だった。
「おい、おいらの親友に何してるんだ?」
日頃、常に笑顔のアドニスが、まるで猛き獅志の様な鋭い眼光で男達を睨んだ。
「何だー?あ? 今度は白人の坊やか、おめぇも痛い目にあいてーか?」
威嚇してきた、その時だった。
「何!? な、なんだ、ナニモノだお前! おい!見てないで助けろ!」
アドニスは何と片腕で130kgはある大男の襟を掴みを、ヒョイと持ち上げ、口を開いた。
「俺は、俺の親友に何してるんだって聞いてるんだぜ?」
そう言い、彼は更に高く相手を持ち上げた。
「おい、平助! お前、どうにかしろ!」
と、相手はまるで、命乞いをするかの様に、手下に叫んだ。
「消えろ。」
そう言い、アドニスは相手を、地面に落とした。
ドザン、、
大男達は、一目散に逃げて行った。
そして、、
そこには、涙を浮かべ、感謝を述べるカリンパさんの姿があった。
「カ、カリンパさん、、、?」
俺は泣いている彼女の元へと、直ぐに駆け寄った。
「お恥ずかしい再会になっちゃいましたね、、」
彼女はうつむきながら口を開いた。
俺は本能的に分かった、何故、カリンパさんが泣いていたのか。。
「姉さん、一体何があったんだい」
アドニスが尋ねると、彼女は震えながら、口を開いた。今にも消えてしまいそうなか細い声だった。。
「私は一族の恥です。。」
元々、25歳の精神年齢でタイムスリップしてきた俺には、何故、カリンパさんが泣いているのかが、直ぐに分かった。
「私は身体を売って、お金を得ています。父の入院費の為に。。私は汚れてしまった女です。。」
「身体を売る??ん?」
天才だが天然のアドニスは、良く分からない様な感じだった。
「カリンパさん、、大丈夫。これを使って下さい。人生をもう一度、やり直しましょう。」
そう言い、俺は岩瀬にかつて、かたみとして、受け継いだ金の鍵を彼女に渡した。
「え!? おい、優、お前、本当に良いのかよ!?」
「大丈夫、俺は、もう一つ持っているから。」
俺はカリンパさんに、自分はトラベラーである事、騎士団の一員だった事、全てを話した。
彼女も、シルバの襲来の時にいたので、直ぐに話を信じてくれた。
「あの、優さん、貴方の本当の西暦や生まれた場所等、どうか、教えてくれませんか?」
「私、私、きっと、生まれ変わって、貴方に会いに行きます。」
俺は、元の世界での住所や、本当の歳を伝えた。
そして、「頑張って下さい、後、これを貴方に。」
そう言い、阿寒湖畔で買った青い彫刻のネックレスを彼女に渡した。
そうして、、
彼女が金の鍵を夜空にかざすと、あのカウントが始まった。。
「優さん、ありがとうございました。貴方を忘れません!」
そう言い、ピカッと、辺りが眩しく光り、カリンパさんは、最後に笑顔を見せて、タイムワープをし、消えていった。
これが、一輪の花との別れだった。
俺はハナムケに、気付けば気付かぬ内に両の瞳から涙を流していた。。
ハナムケの夜、空を見上げると、まるで、幾輪もの桜の花びらが咲き誇る様に星達がキラキラと輝いていた。
キュン
–
尊い
–
ぐっときた
–
泣ける
–
好きです
–
推しです
–
自分の作品にはスタンプを押せません
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作品コメント
4件
作品コメントを入力…
R太郎
2023年10月30日
y.kato さん、いつも、読んで下さり、しかも、コメントまで、、、本当に嬉しいです! 本当にありがとうございます(*^^*) フフフ、何を隠そう、、私もとある駄菓子屋にて、、、フフフ! 次も速攻で載せるので是非是非、ご覧下されば、とっても嬉しいです(^^) R太郎(*^^*)
y.kato-channel
2023年10月30日
本当によく書けてる話ですよね! 好奇心を刺激する、 面白い作品だと思います! というか、 また読みに来ました! あなたもトラベラー? 岩瀬美里も?
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